【福島#2】不登校の子供たちへのオンライン支援|教育振興基本計画×実践事例⑨
各地域における教育振興基本計画の具体的な取組事例を発信する「地域発!教育振興基本計画×実践事例レポート」第9弾。
前回に引き続き、福島県の取組のうち、不登校児童生徒に対する支援の具体例をご紹介します。
支援の具体的取組事例
前回は、福島県の不登校児童生徒や地理的・交通状況を考慮し、児童生徒への学習支援や交流支援の一つとして、オンラインでの支援が進められていることをご紹介しました。
その支援は実際にどう行われているのでしょうか?
実際にオンラインでの活動の様子を見ると、この日の午前中は、参加者同士やスタッフとのコミュニケーションに主眼を置いたプログラムに、主に中学生が10名程参加していました。
スタッフが企画したゲームプログラムでは、スタッフからの問いかけに対し、参加者が具体的なテーマや細かいルールをチャット機能で随時書き込んで提案していきます。書き込まれたコメントに対して、他の参加者はリアクションボタン機能で反応をすることができ、例えば「拍手」ボタンは手のアイコンが画面に表示されパチパチと音が鳴るなど、一緒に参加している雰囲気がオンライン上でも体感できます。このようにお互い反応をし合いながらゲームをしていきます。
児童生徒のちょっとした発言に対しても、スタッフはよく気が付いてコメントをして、それが次の対話につながっていました。このように、気軽に人とつながりやすい仕組みの中で、スタッフが児童生徒の心理的安全性を高めながら支援が行われています。
こういった日々の支援に対して、学校の先生からは、「roomFをきっかけに担任との話題が共有され、信頼関係が高まっている。」、保護者の方からは、「子供の意欲や好奇心にさりげなく寄り添っていて、やる気や安心感につながっている。」という声があるなど、不登校児童生徒の状況を多面的に把握し、情報を共有することで学校での支援もよりきめ細かくなるなどの効果が見えています。
支援体制
こういった仕組みの活用には、支援側の体制が欠かせません。
roomFで日々取り組むスタッフは、オンラインだからこそ、一つ一つ書き込まれた児童生徒の言葉をとても大事に見ています。たとえリアクションボタン1つにしても生徒の反応として大事に捉えています。
また、児童生徒から自分の好きなこと・ものについての話があった際は、スタッフはすぐにそれらを調べたり、実際に手に取ったりなどして、児童生徒との話をふくらませるきっかけにしています。そうして関係性を作っています。
日々の児童生徒の様子は、システム上の活動ログや、スタッフがまとめた記録をroomFと学校とで情報共有・連携することで、どちら側でも的確に支援ができるようにし、児童生徒の居場所を拡げられるように取り組んでいます。
しかし、限られた体制で取り組んでいるため、工夫していてもノウハウなどが不足する部分があり、そのような課題に対しては、広島県教育委員会や三重県教育委員会など共通して取組を進めている他の自治体等と連携して、配信プログラムについての情報共有などを行っているということでした。
このように連携体制を構築して、児童生徒の居場所を拡げられるように取組が行われています。支援する児童生徒の中には、当初、学校でのコミュニケーションに自信がなく、登校が難しかった児童生徒が、オンライン上でスタッフや参加者とのコミュニケーションに慣れてきたり、学習で自信をつけたりしたことで、登校できるようになった事例も出ているということです。
roomFとしては、まずは安心して居られる「オンラインの居場所」として認識してもらい、コミュニケーションをとることや自分の段階に応じた学習によって、自信をつけることを意識しています。自信がつくことによって、何らかのきっかけにより、自然と学校に戻っていく児童生徒が出てくるのかもしれません。心理的安全性の高い環境で、児童生徒たちが先生や友達とのつながりを得ながら、自己肯定感を高めている様子がうかがえました。
探究的な学習、生き方を考える学習
また、キャリア教育の1つの取組として、児童生徒が自らの生き方を考えるプログラムが実施されています。
福島県教育委員会が企業との連携協定により実施しているもので、一人一人が多様な生き方や価値観に触れ、他者や社会とつながりながら、自分らしく生きる力を育くむことができるような機会を提供しています。
各プログラムは、様々なジャンルで活躍するガイドのライフストーリーに迫りながら、それぞれの児童生徒が自分らしい生き方を考えるきっかけを提供しています。
2024年10月24日には、「広場恐怖症の写真家と考える『弱さ』とどう向き合う?」をテーマに行われました。県内の、主に中学生の参加者オンラインでメタバース上の会場に集まりました。
広場恐怖症であるがゆえに、ふとしたことがきっかけでオンライン地図上のストリートビューを活用した写真家となったガイドが話した内容は、「自らの弱さをどう認識して、それをどう前向きに変えていくか」というものでした。その話を聞いた後で、ワークショップのように、進行役のスタッフから、「自分が夢中になることは?」「自分の弱点は?」「弱点をいかして何をするか?」などの問いかけが出され、参加者がチャットで答えていきます。児童生徒たちは、「難しい」とつぶやきながらも、一人一人が、自分のことを振り返りながら答えていました。
さらに、スタッフから、他の参加者の書き込みに共感できるところをコメントするよう促しがあると、他の参加者の発言に共感して前向きに捉える言葉が次々と出てきていました。
スタッフたちは、発話をしやすい雰囲気をつくることに努め、児童生徒たちは自発的に自分の考えを表現している様子がありました。
今後の展望
今後、福島県教育委員会としては、現在7市町村で実施しているオンライン支援のモデル地区を、県内全地区に拡大していくことを目標にしているということです。
取材に対応いただいたスタッフの方は、「オンライン支援は、様々な事情を抱えている児童生徒の居場所の一つとなる。この場所は数ある支援の選択肢の一つである。他の支援との併用もできる。いつでも活用してもらい、それぞれが自信をつけてほしい。」と言います。また、「誰も取り残さない教育の実現のため、どこにもつながらない児童生徒が生まれないように、居場所の選択肢を増やせるよう取り組んでいきたい」と意気込みを語ってくれました。
ウェルビーイングの要素として自己肯定感、協働性、学校や地域でのつながり、自己実現、安全安心な環境、サポートを受けられる環境などが重要です。それらの要素を含む取組が福島県で進められています。
後編では、「「福島を生きる」教育」の取組についてご紹介します。
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