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【福島#3】高校生語り部が震災と復興を未来へつむぐ|教育振興基本計画×実践事例⑨

各地域における教育振興基本計画の具体的な取組事例を発信する「地域発!教育振興基本計画×実践事例レポート」第9弾。福島県の取組紹介の後編です。

「福島らしさ」をいかした教育

前編中編では不登校児童生徒への支援の取組についてご紹介しましたが、今回は、第7次福島県総合教育計画が目指す「個人と社会のWell-beingを実現」に向けて、「福島らしさ」をいかして、子供たちが自らの可能性を伸ばすとともに、子供たちが生きるこの福島県の未来を創造する取組事例をご紹介します。

取組の名称は、「震災と復興を未来へつむぐ高校生語り部事業」。この実践校として、令和6年度は18校が取り組んでいます。

震災と復興に関する地域課題探究学習を通して、福島における震災、復興、そして自らが今まさに生きている福島県という地域の未来について、自分の考えを持ち、自分の言葉で語ることのできる高校生(「高校生語り部」)を育成することを目指しています。

この実践校のうちの一つである、郡山市に位置する、福島県立あさか開成高等学校で、生徒たちの学習成果を見せてもらうとともに、それぞれが考えていることを自らの言葉で語っていただきました。

学校の取組概要

福島県立あさか開成高等学校は、キャリア指導推進校に位置づけられ、国際科学科という県内唯一の学科で、単位制を取っています。

このあさか開成高校では、スクール・ポリシーに位置づける「Global Spirits 国際性豊かな人間」、「Creative Spirits 創造性豊かな人間」、「Human Spirits 心豊かな人間」の3つの柱をウェルビーイングと結び付け、大きな目標として掲げています。そのうえで、持続可能で多様性のある社会を実現するためにはどうしたらいいか等を考え、活動する様々な取組を行なっています。その一つとして、これから紹介する「語り部事業」があります。

あさか開成高校は、2021年度から、福島県が実施している「語り部事業」実践校として、自らや福島県のことを考える学習を行なっています。最初は地域に関心を持つ数名の生徒から始まりましたが、その後参加生徒は増え、今では40名ほどが参加しています。

「語り部事業」では、他県との交流、海外との交流、地域課題解決のための探究学習をとおして、例えば広島や長崎の被災、水俣病などの公害などについて学びながら、福島における震災について多様な視点で理解を深め、福島のために、自分ができることは何かを生徒たち自身が考えています。

取組の紹介

伺った10月末頃のこの日は、生徒10名が集まっていました。

生徒たちはこれまで取り組んできた活動内容について発表をするとともに、それぞれが学習をとおして学んだことや、考えたことを話してくれました。

発表を行う生徒たち

まず、昨年度から今年度にかけての語り部事業では、福島県内外の地域の方々や、他県、海外の高校生たちとの交流を行いながら、「知る」「伝える」を軸にした学習が行われていました。例えば、福島県内で被災規模が大きかった地域や長崎・広島を訪れ、語り部となっている方々等から、何をどう語っているのか学んだうえで、自分たちだったらどう語るかを考え、そして都内を含めた様々な場所で語り部の実践活動を行っていました。また、タイ、台湾、ハンガリーなど多種多様な国を訪れたり、オンラインで交流する中で、異なる言語や文化を相手の方にどう伝えるかを実際に体験しながら学んでいました。

その学習をとおして、生徒たちはどんなことを得て、考えているのでしょうか。

生徒たちの言葉からは、学習をとおして、福島のことを見つめなおすとともに、福島の魅力に気付き、福島のために行動したいと思うようになっている様子がわかりました。

福島のことを知る

ある生徒は、自分は地域のことにはほとんど関心がなかった、と率直に語りました。しかし、皆と学習する中で、地域のことを見つめ、他県や海外の方から客観的目線で福島の魅力を教えてもらう機会などを得て、地域のことを考えるようになっていったということです。

元々地域に関心を持っていた生徒は、より深く福島のことを知るきっかけになったと言います。地域の方々との交流などから、自分の経験・目線だけでなく、様々な視点で福島の震災のことを捉えるようになっていました。また、福島の人々の温かさも知ったと言います。

それぞれの活動フィールド

全体での学習とは別に、先生と相談したうえで、それぞれの関心に応じた活動も行っています。語り部として語り継ぐための話をオリジナル紙芝居にまとめる生徒、子供たちへの絵本の読み聞かせのボランティア、放射線に関しての勉強会への参加、猪苗代湖クリーンアクションへの参加などなど。

猪苗代湖の環境問題に関心を持ち、エシカルの視点でクッキーの製造・販売を行い、官邸で内閣府特命担当大臣表彰を獲得した生徒もいます

かわいらしい見た目のエシカルクッキー

自分たちと地域の将来を考える

学習は、自らと地域をリンクさせて、生徒たちの将来について考える機会にもなっています。例えば、被災者と交流する中で、震災体験を心理的に軽減できるような心理士になりたいという生徒や、放射能の問題をきっかけに放射線を扱う仕事や放射線を研究する仕事に関心を持つ生徒もいました。保育・教育に従事しながら、地域の中で「復興」をより身近なテーマとして皆で考え続けられるように取り組みたいと志す生徒もいます。最初は地域にあまり関心を持っていなかった生徒は、今では震災の時に弱い立場になってしまうような外国人や障害者なども救えるような、誰も取り残さない地域社会実現のことを考えていきたいと語ってくれました。

このように生徒一人一人が、自らの言葉で、自分や地域の将来のことについて語ってくれました。

こうした学習を支えている先生方には、いつでも相談ができるということです。そして、先生からアドバイスを得て、それぞれが新しい活動場所に飛び込んで、さらに新しい経験を得ていました。

また、今は失敗してもいい環境だから、今のうちに色々なことに挑戦したい、と言う生徒もいました。
このように新しいことに挑戦できて、支えてくれる仲間や先生がいるという心理的安全性、地域の方々からの応援などによる自己肯定感、地域への貢献など、生徒一人一人のウェルビーイングにとって重要な要素も見られる取組でした。

今後の展望

国際科学科長の渡部先生(国語科)は、「生徒たちには、英語でのコミュニケーションなど戸惑うこともあるが飛び込んで行ってほしい」と言います。「自分は後ろから見守りながら、生徒には「行っておいで」と生徒を促している」と語ってくれました。また、この取組が学校内で継続していけるように、学年をまたいで、生徒を集めていると話してくれました。そして、軽部校長先生は、「より多くの生徒が活動に参加できるようにしていきたい」と語ってくれました。

教育委員会でこの事業を担当する佐々木理恵指導主事は、「震災やその後の復興を学び、発信する本事業を通して、生徒たちが福島のことを自分ごととして捉えるきっかけとなっているように思います。震災から13年がたち、当時の記憶のない、または記憶の乏しい高校生が増えています。福島に生きる高校生が、福島における震災と復興を学び、未来について考え、県外、海外に自らの言葉で発信していくことは、次世代への記憶と教訓の継承という視点からも重要な活動であると考えています。」 と、この事業の意義や成果などについて語ってくれました。

福島県では、ご紹介した取組をはじめ、数々の取組によって、児童生徒一人ひとりが自らの力で豊かな人生を切り拓き、多様な他者と共に豊かな社会を創造していくための力を育んでいます。

3回に分けてお届けしましたが、ご覧いただき、ありがとうございました。この福島県の事例も、ぜひ今後の参考にしていただけたらと思います。

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