【地域中核・特色ある研究大学支援②】J-PEAKS事業採択大学の取組紹介~第2弾 慶應義塾大学・金沢大学・信州大学・大阪公立大学~
日本全体の研究力向上に向けて、文部科学省では様々な強みを持つ大学に対して「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」を通じて支援を行っています。
J-PEAKSでは、令和5年度に12大学を採択しており、今年の7月5日には採択された全12大学の学長に登壇いただき、その取組を紹介するためのキックオフシンポジウムを開催しました。
第1弾に続き、第2弾でもキックオフシンポジウムで紹介された採択大学の取組の概要について紹介します。
【慶應義塾大学】智徳の協働で、多様な研究拠点を生み出し育む「土壌」を醸成し、比類なき研究で未来のコモンセンスをつくる
未来のコモンセンスをつくる研究大学
慶應義塾大学では、大学の目的である「躬行実践」を原点とし、世界が地政学的・環境的な課題を抱える現代だからこそ、「実学」によって社会を先導していくことが必要と考えています。
そこで、本事業を通じて、実学の成果を未来のコモンセンスとして成就させるエコシステムを確立するため、領域横断研究を創出し成長させるための土壌を整備し、課題解決から社会実装までを支援する体制構築を推進しています。
そして、本学の強みであるWPI及びCOI-NEXT等の特色ある拠点を発展させ、学際的に新たな研究拠点群を創出し、研究拠点間同士の連携や社会とのつながりを強化しています。
○ WPI:慶應義塾大学ヒト生物学-微生物叢-量子計算研究センター(WPI-Bio2Q)拠点
○ COI-NEXT:誰もが参加し繋がることでウェルビーイングを実現する都市型ヘルスコモンズ共創拠点
○ COI-NEXT:リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点
スタートアップを実業に昇華
社会実装においては実業家養成に特に力を入れて取り組んでいます。その際、スタートアップは立ち上げて終わるのではなく、実業に昇華させることが重要であると考えており、慶應義塾大学では、ベンチャーキャピタルとスタートアップ部門を創設し、それらの掛け合わせによる支援を行っています。相乗的な成果として、2023年度時点で全国の大学の中で大学発スタートアップ資金調達額が1位、大学発ベンチャー企業数が2位と躍進しています。
また、矢上キャンパスには理工学分野を中心としたオープンイノベーション施設「Yagami Innovation Laboratory(YIL)」を、そして信濃町キャンパスの大学病院棟の中には、医療の現場に密着した研究シーズに基づくスタートアップ振興のためのインキュベーション施設「CRIK信濃町」を整備しています。
領域横断研究の創出、産学連携促進、国際的人材育成の強化
本事業を支える学内の運営体制については、学際的・実践的に新たな領域横断研究を創出する「慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)」、産学連携を促進し起業家・実業家を支援する「イノベーション推進本部」の機能を強化しています。これらの部門の人員の拡充を通して、多様な課題を迅速に共有し解決に導く体制を実現することとしています。
また、連携機関の沖縄科学技術大学院大学(OIST)と共同で学術研究の推進と国際的人材の育成を進めるとともに、双方の大学に連携コーディネーターを常駐させることで緊密な連携を推進しています。同時に、海外の参画機関とも組織的な交流を図り、研究力の一層の強化を図っています。
これらの取組を通じて、現在では想像もできないような未来のコモンセンスをつくる研究大学として、またJ-PEAKS採択大学群の一校として、日本を活性化させるために活動しています。
【金沢大学】予測不可能な時代の社会変革を主導する文理医融合による非連続的なイノベーションを起こす世界的拠点の形成
未来ビジョン「志」
金沢大学は、10年後のビジョン「非連続なイノベーション(これまでの延長線上にない新たな価値の創造)を創出し続ける文理医融合の世界的拠点」の形成を掲げています。
金沢大学憲章の基本理念に立脚して策定した未来ビジョン「志」において、未来の課題を探索し克服する知恵「未来知」により、オール金沢大学で社会に貢献することを明示しています。10年後のビジョンからバックキャストして、「研究力強化」、「社会実装」及び「ガバナンス強化」の3つの柱を基盤とし、「基礎研究・融合研究の高度化」、「社会実装の最速化」の2つの方向性と、「4つのアクション」を組み合わせて施策を展開しています。
基礎研究・融合研究の高度化と社会実装の最速化
研究力強化のための戦略として、大学の国際化と基礎研究・融合研究の強化を目指し、段階的な支援を実施します。まずは全学的な研究力向上支援を通して幅広い裾野を作り、そこから高度化・先鋭化を実現していくことで、世界トップクラスの研究拠点群を形成しています。
また、組織を超えた異分野融合の一例として、連携大学である北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)と共に医学・理学・工学・生物学等の異分野研究者間コミュニケーションに基づく研究課題創出を推進しています。
社会実装のための取組として、社会ニーズと大学のシーズを繋ぎ実証研究を推進する「未来知実証センター」を設置しました。また、JAISTと連携したスタートアップ創出プラットフォーム「Tech Startup HOKURIKU(TeSH)」と、金沢大学の100%出資子会社である「株式会社ビジョンインキュベイト」を設立しました。これらを連携させ、基礎研究から社会実装に至るスタートアップの創出と成長を加速に取り組んでいます。
知・人が集積する世界的拠点の形成
ガバナンス面では、研究担当理事を本部長に置く「金沢大学J-PEAKS推進本部」を設置しました。新たに設置する学長直轄の改革戦略室経営戦略部門をはじめとする学内各組織や連携大学と緊密に連携し、効果的に事業を推進しています。
J-PEAKSを通じて、北陸地域をスタートアップ先進地区へと発展させることで大きなソーシャルインパクトを生み出し、国内外から多くの知・人が集積する世界的拠点を形成しています。
【信州大学】水関連先鋭研究を核に、研究の卓越性、イノベーション創出、地域貢献を三本の矢として一体推進する。
J-PEAKS 信州大学の使命
信州大学のJ-PEAKSビジョンは、「水関連先鋭研究を核に、研究の卓越性、イノベーション創出、地域貢献の三本の矢を一体的に進める」というものです。これは、信州大学が取り組むべき挑戦であり、圏域を超えた連携を通じて社会的イノベーションを生み出し、地域に貢献するという強い意志を示しています。
このビジョンを具現化するため、「グレーター・ユニバーシティ・ビジョン(VGSU)」を掲げています。VGSUは、県境を越えた広域連携の中心として、地域貢献にとどまらず、世界に目を向け、未来へつながる教育研究を推進し、その成果を地域に還元する新たな価値創出の構想です。
信州大学のポテンシャル
地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)が迫る中、信州大学はこれまで、COI事業や地域イノベーション・エコシステム形成プログラムを通じて、水の惑星である地球の持続可能性に向けた取り組みを世界規模で展開してきました。
特に、「アクア・リジェネレーション(ARG)」分野(水や水由来の水素エネルギーを利用して地球環境の再生を目指す分野)においては、卓越した研究力を誇っています。この研究力を強みに、地球環境を積極的に改善し、経済成長と持続可能性が両立するカーボンニュートラル(CN)社会の実現を目指しています。これを信州大学が担うべき新たな価値創出と位置付けています。
地域との連携:GX実証タウン
CN社会の実現に向け、長野県内の松本市や飯田市と連携し、「実証タウン」として課題解決のシナリオを具体化します。具体的には、信州大学が誇る「信大クリスタル」や「信大RO膜」の技術を活用し、水の無限循環と地産地消システムを開発しています。
また、「信大人工光合成」技術によるソーラー水素の生成や、メタネーションによる炭素固定など、グリーンエネルギーと組み合わせたエネルギー循環システムを構築し、新たなイノベーションを生み出していこうとしています。
行動変容への挑戦
令和5年10月のキックオフイベントを皮切りに、長野県、松本市、飯田市、造水促進センター、中部経済連合会、JSTなど、自治体、企業、官公庁、各種団体と協力し、「アース・ゼロ・ポジティブ」な活動を推進するための意識共有を図ってきました。
その集大成として、2025年の「大阪・関西万博」では、「SDGs達成やPETボトル削減・脱プラ社会への貢献」をテーマに、市民と共に行動変容に挑戦しています。信大クリスタル技術を用いた浄水器(swee)の設置や、マイボトル運動の推進、さらに信大RO膜や信大人工光合成技術を活用した体験型プログラムを通じて、環境意識の向上に貢献しています。
信州大学では、VGSUの理念のもと、世界と地域をつなぐ架け橋となり、世界から日本、そして地域を活性化し、豊かにすることを目指しています。
【大阪公立大学】イノベーションアカデミー事業の推進によるマルチスケールシンクタンク機能を備えた成熟都市創造拠点の構築
未来アジアの都市シンクタンク
大阪公立大学は、全固体電池(蓄電池)を基軸としたエネルギー材料研究や行政機関の政策立案や社会実装に積極的に貢献してきた実績に特色を持ち、総合知を駆使して社会課題に立ち向かうことを強みとしています。
その強みを生かして、J-PEAKSでは、一国家程度の人口規模や経済圏がコンパクトにまとまっている大阪の地で、地域からの信頼を得ながらwell-being都市モデルを発信する未来アジアの都市シンクタンクとなることを目指しています。
この大学ビジョン実現に向けて、総合知の実践の場となる「イノベーションアカデミー(ia)事業を通じた共創研究の加速化」と、大阪とアジア圏の双方へアプローチする「社会から信頼され、行政のブレーンとなる都市シンクタンク」に関する取り組みの2つをJ-PEAKSを通して強力に推進しています。
イノベーションアカデミー事業を通じた共創研究の加速
まず、ia事業を通じた共創研究の加速に向けては、各キャンパスにある産学官民共創リビングラボをネットワーク化し、総合知の実践の場として社会的受容性の検証を行うフィールドを提供します。そのために、ia事業への資金の集中投入と戦略的な人員配置を行うとともに、技術移転戦略体制の強化を図ります。
そして、ia事業では、スマートシティ・スマートエネルギー・スマート農業・スマートヘルスケア・こども未来社会の5つの研究ユニットの共創の場を構築しており、それら5つの共創研究ユニットをドイツ人工知能研究センターのジャパンラボとの連携によりAIが支えています。
都市シンクタンク機能の醸成
もう1つの都市シンクタンク機能の醸成に向けては、自治体と連携したソーシャルキャピタルの醸成に向けた組織構成とアジア展開を進めています。
この4月からは、産学官民共創推進本部において自治体と連携した地域の課題解決プロジェクトタスクフォースを構築するとともに、自治体を実証実験のフィールドとするサテライトキャンパスの設置や、行政のDX・GX化とリスキリングを支援するスマート社会研修を開始しました。それらの社会的なインパクトや効果を検証しながら、ソーシャルキャピタルを醸成しています。
また、アジア諸国の地域に適したwell-being指標やソーシャルインパクトを議論する場であるアジアラウンドテーブルを組成し、アジア諸国からの信頼を得る大学を目指しています。
スマートエネルギー領域の産学官民共創研究
また、地域中核・特色ある研究大学の連携による産学官連携・共同研究の施設整備事業において、大阪公立大学が最も強みを持つスマートエネルギー領域の産学官民共創リビングラボ施設を新設しました。この施設を核として風力発電や太陽光発電などの多様な設備を活用しながら創エネ・省エネ・蓄エネ機器の最適化やAI化を可能とするプラットフォームやエネルギーマネジメントシステムを構築するとともに、他施設への応用を可能にする産学官民共創研究が今始まろうとしているところです。
これらの多岐な分野に跨る取組を推進するため、学長のトップマネジメントの下、全部局長が参加する「J-PEAKS運営委員会」を組織し緊密な進捗共有管理体制を実現しました。令和6年4月に新設した「産学官民共創推進本部」においては、技術移転や地域連携に係る支援を通じて学内外関係組織との連携を強化しています。
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次回は、神戸大学、岡山大学、広島大学、沖縄科学技術大学院大学の取組について紹介します。
なお、文部科学省では地域中核・特色ある研究大学強化促進事業の取材をお待ちしております。報道関係者の皆様におかれましては、お気軽に科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課拠点形成・地域振興室にお問い合わせください。
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