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【地域中核・特色ある研究大学支援①】J-PEAKS事業採択大学の取組紹介 ~第1弾 北海道大学・千葉大学・東京農工大学・東京芸術大学~

日本全体の研究力向上に向けて、文部科学省では様々な強みを持つ大学に対して「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」を通じて支援を行っています。
J-PEAKSでは、令和5年度に12大学を採択しており、今年の7月5日には採択された全12大学の学長に登壇いただき、その取組を紹介するためのキックオフシンポジウムを開催しました。
シンポジウムの当日の様子のほか、採択大学の取組の概要を紹介します。


キックオフシンポジウムについて

7月5日のキックオフシンポジウムでは、会場参加・オンライン参加合わせて約1,000名の大学、企業及び自治体関係者等にご参加いただきました。

丸ビルホール会場の様子

冒頭、文部科学省の盛山正仁大臣(当時)から挨拶があり、日本全体の研究力向上のため、大学において「戦略的経営」を進めることをお願いするとともに、「各大学がそれぞれの大学ビジョンを実現し、世界から日本の大学で研究したい、学びたいと思われる大学になって欲しい」という期待と、文部科学省としても伴走支援を行っていく決意を伝えました。

また、基調講演では、地域中核・特色ある研究大学の振興に係る事業推進委員会の山崎光悦委員長(福島国際研究教育機構 理事長)より、令和5年度審査を通じて、各大学の申請書から見える大学の現状の課題とそれに対する改革の方向性や、地域中核・特色ある研究大学に求められる大学改革の在り方についてご講演いただきました。

山崎光悦委員長による基調講演
基調講演スライド①
基調講演スライド②


【北海道大学】フィールドサイエンスを基盤とした地球環境を再生する新たな持続的食料生産システムの構築と展開

続いて、令和5年度にJ-PEAKSに採択された12大学が取組を紹介しました。その内容を抜粋してお伝えします。

北海道大学 瀬戸口理事・副学長

北海道大学は、札幌農学校を前身とする150年の歴史の中で培った農学・水産学・環境科学・生態学・生命科学研究等の強みを結集し、国内最大規模のフィールドである北海道を活用して、リジェネラティブ(環境再生促進型)な持続的食料生産システムの研究開発および社会実装を目指しています。

総長のリーダーシップのもと、HU VISION 2030を設定し、「研究の卓越性:Excellence」と「社会展開力:Extension」の2つの軸の統合とその好循環・エコシステムの創成を目指して大学改革を推進しています。

地域・社会課題に密着した取組として、農業の深刻な社会課題のひとつである人材不足問題の解決の鍵となる「スマート農業」の研究や、地球温暖化を原因とする水産資源の枯渇の先進的な解決を目指す「地域カーボンニュートラル養殖:函館マリカルチャープロジェクト」に取り組んでいます。

また、道内の自治体や半導体企業、国内外の教育機関と連携した北海道全域における高度半導体人材の育成強化など、強みや特色ある教育研究力を核として更なる社会展開に取り組んでいます。

こうした大学の強みや特色を更に先鋭化するため、先端融合研究や産業創出等に結び付く新たな研究プロジェクトを段階的に創発・育成するための新組織および研究プラットフォームをトップダウンかつ戦略的に構築し、海外大学や北海道内の参画機関との連携強化により、研究力の向上と世界の課題解決の双方の実現を目指しています。

【千葉大学】免疫学・ワクチン学研究等を戦略的に強化し、成果の社会実装に繋げるとともに、取組を学内に横展開する

千葉大学 横手学長

千葉大学では、研究力の向上を基盤とした10年後のビジョンとして、「千葉大学の強みや特色ある研究領域において、学び、研究し、イノベーションを創出する場として、国内外の学生や研究者に選ばれる大学となる」ことを目指しています。

この実現に至るまでのプロセスとして、「免疫学・ワクチン学研究領域」の世界的卓越性の追求を核に、最先端のデータサイエンス技術へのキャッチアップと学内横断的な導入・運用を目指すデータサイエンスコア(DSC)や、ヒト免疫疾患に対する基礎研究から治験までを一気通貫に支援する「ヒト免疫疾患治療研究・開発センター(cCHID)」、動物実験の代替法開発等を推進する「次世代invivo研究探索センター(cNIVR)」といった様々な学内組織の整備を進めています。

その他にも、柏の葉キャンパスに新しく整備する「千葉大学 Biohealth Open Innovation Hub」において国内外のネットワークを活用し、バイオ×健康領域のイノベーション創出を加速しています。

これらの幅広い取組を、次の10年間を見据えたうえで、効率的・効果的に遂行するため、学長のリーダーシップの下での全学的推進体制を実現する「NEXT Decennium研究戦略推進本部」および「NEXT Decennium 研究戦略推進会議」を設置しました。また、推進本部の下には主要な取組ごとにチームを設置し、柔軟にチームを新設・改廃しながら、全国の大学への横展開、千葉大学全体の中長期的な発展に繋げていこうとしています。

また、前述のデータサイエンスコア(DSC)は、7月1日付けで設置されたところです。中枢を担うダイレクターオフィスには、スタートアップやデータサイエンスを専門とする民間人材を積極的に登用し、この4月に千葉大学に設置された情報・データサイエンス学部・学府とも連携しながら、先端研究のバックアップと高度データサイエンス人材育成の双方を推進しています。

【東京農工大学】西東京の三大学が食とエネルギー研究を海外展開し、国際イノベーション創出するための研究力強化を推進する

東京農工大学 千葉学長

東京農工大学では、基礎研究力の着実な強化を背景に、国内にとどまらず、世界的な社会課題に果敢に取り組むことで、国際社会における課題解決力と研究成果の実装力の両方の強化を進めています。これにより世界からの信頼と多様な国内外の資金を得ることで、国際的求心力を向上させるとともに、総合的研究力を高めています。

具体的な取組のひとつとして、政府が「2030年までに本邦エアラインによる燃料使⽤量の10%を持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)に置き換える」との⽬標を設定しているところ、林業から生成される植物油を活用するSAFの実用化手法を多角的な視点から検証しています。

特にマメ科の樹木であるポンガミアは、種子に油脂を豊富に含むことのほか、窒素を地中に固定化するため、土壌改善の効果が高く、また、非食用植物を非耕作地に植林するため、既存の農業や食料と競合しないことから、SAF資源として注目しています。

このような取組を進めるため、学内の既存組織だけでなく、認定農工大ファンドや本学100%出資会社、連携大学が持つそれぞれの「知」を集結させ、世界の「産」へと展開できる研究力を獲得し、資金循環により教育研究の充実・質向上へとつなげる経営方法を確立させることを目指しています。

【東京芸術大学】アートと科学技術による「心の豊かさ」を根幹としたイノベーション創出と地域に根差した課題解決の広域展開

東京芸術大学 日比野学長

東京芸術大学の講演は、「なぜ東京芸術大学がJ-PEAKS事業に取り組むのかと不思議に思われる人もいるかもしれません。そのような風潮を作ってきたのがこれまでの芸大、そして社会における芸術に対する印象だと思います」という問題提起から始まりました。

東京芸術大学では、J-PEAKS事業をきっかけとして社会における芸大そして芸術の印象をアップデートするという考えのもと、10年後の大学ビジョンとして、芸術の持つ人々の心を動かす力をもって、SDGsの17つのゴール達成に必要な人々の行動変容に結び付ける取組を推進しています。音楽、美術という表現だけを芸術と呼ぶのではなく、それを聞いたり見たりした人が心を動かすところにこそ芸術の役割があると考えているそうです。社会課題解決には人の力が必要で、かつ一朝一夕には課題は解決しないため、「解決したい」と願う人の心が持続する必要があります。その心を動かす部分にこそ芸術の力が作用していくという考えのもと、複数の事業を行っています。

東京藝術大学のSDGsへの取組み

具体的には、J-PEAKSを通して3つの取組(モデル開発)を進めています。

一つ目は、「都市集積型の共創モデル」です。都内にキャンパスを構える東京芸術大学、東京大学及び東京科学大学、企業及び自治体が連携し、都市のウェルビーイングや創造性に繋がる研究開発や社会人を対象とした人材育成事業を展開しています。

二つ目は、「地域/地方型の共創モデル」です。瀬戸内海をステージとして、香川大学と連携し、「知らないことを知りたい」という芸術と科学に共通する目的に基づき、双方の分野融合により地域課題を解決に導く研究開発や人材育成に取り組んでいます。

三つ目は、「多文化共生型の共創モデル」です。「アートと福祉の融合」をテーマに、本学が実施してきた様々な福祉施設等における芸術を通じた交流、またそれを支える人材育成の取組を発展させ、異なる文化の相互作用による研究・実践を通じて、新しい価値と可能性を提示していす。
TURNプロジェクト…障害の有無、世代、性、国籍、住環境などによる違いや共通することと向き合い、一人ひとりのその人らしさを見出していくアートプロジェクト 
DOORプロジェクト…「ケア×アート」をテーマに「多様な人々が共生できる社会」を支える人材を育成するプロジェクト

これら3つのモデル開発と並行して、アートのインパクト評価の在り方についても検討を重ねていて、芸術の特性をふまえて、単純な数値的評価に捕らわれず、その価値を「共有し、伝えること」を主軸とした新たな社会的・経済的インパクトの評価・可視化の手法開発に取り組んでいます。また、これからの社会におけるアートの役割を探究し、アートを基軸に未来の新産業を生み出していく拠点「芸術未来研究場」をベースに、新しい価値観を芸術の力でつくっていくことを目指しています。


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次回は、慶應義塾大学、金沢大学、信州大学、大阪公立大学の取組について紹介します。

なお、文部科学省では地域中核・特色ある研究大学強化促進事業の取材をお待ちしております。報道関係者の皆様におかれましては、お気軽に科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課拠点形成・地域振興室にお問い合わせください。


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