【地域中核・特色ある研究大学支援③】J-PEAKS事業採択大学の取組紹介~第3弾 神戸大学・岡山大学・広島大学・沖縄科学技術大学院大学~
日本全体の研究力向上に向けて、文部科学省では様々な強みを持つ大学に対して「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」を通じて支援を行っています。
J-PEAKSでは、令和5年度に12大学を採択しており、今年の7月5日には採択された全12大学の学長に登壇いただき、その取組を紹介するためのキックオフシンポジウムを開催しました。
第1弾と第2弾に続き、最後となる第3弾でもキックオフシンポジウムで紹介された採択大学の取組の概要について紹介します。
【神戸大学】バイオものづくりの卓越した基礎研究と社会実装の両輪で世界をリードするイノベーションを継続的に創出
異分野共創の拠点群でイノベーションを牽引
神戸大学は、大学のビジョンとして「真理探究の基礎科学研究、地域社会と共創する応用科学研究の推進・連携により新たな知と人を創り、社会に貢献する異分野共創研究教育グローバル拠点を目指す」ことを掲げています。その中核となるのが、J-PEAKSを通して発展させる「デジタルバイオ・ライフサイエンスリサーチパーク(DBLR)」であり、全学の叡智を結集した産学官が集まる異分野共創の拠点群として、イノベーション創出、社会実装、スタートアップ育成を牽引しています。
このDBLRには、その専門分野に応じた5つの研究拠点を構築し、相互に連携することによって「知」「人材」「資金」の好循環サイクルを確立しています。この中でも、特に医療ヘルスケア、エネルギー、食糧分野等多岐にわたる産業において社会的インパクトをもたらす「バイオものづくり共創研究拠点」を中心に、神戸大学をグローバル・イノベーション・キャンパスへ変革させるため4つの取組を行っていくこととしています。
4つの取組を中心にグローバル・イノベーション・キャンパスへの変革を目指す
一つ目は、異分野共創研究領域「Engineering Biology(バイオものづくり)の構築」です。国内外の大学と連携し、異分野共創による社会課題解決の学理形成と研究基盤の強化を目指しています。また、連携機関である広島大学の特色であるバイオ生産技術を活かし、世界有数のバイオファウンドリロボット化・DXの基盤技術の創出の実現に取り組んでいます。
二つ目は、「DX・自動化研究環境の全学展開」です。ロボットによる実験の高速化・高精度化、およびデータ駆動型研究基盤の構築に係る実績を学内および学外連携機関へ横展開し、研究の高速化と効率化に繋げていこうとしています。
三つ目は、「グローバル・イノベーション創出機能の強化」です。既に本学は数十億円規模の資金調達を達成している強力なスタートアップを複数社創出しており、これらの立ち上げの経験から、社会課題解決を起点としたバックキャスト手法によるグローバル・スタートアップの成功確率上昇に取り組んでいます。
四つ目は、「地域産業のグローバル展開」です。神戸市と連携してグローバル・バイオクラスターを形成し、グローバル・バイオクラスター戦略の立案・実行等により、神戸市ポートアイランド地区におけるDBLRを発展させるとともに医療産業都市における雇用者数増への貢献を目指しています。また、バイオものづくり共創研究拠点を活用し若手研究者の育成を全学展開し、卓越性・国際性・多様性に富む優秀な研究者の輩出に取り組んでいます。
これらの取組を通じて、10年後には神戸大学をグローバル・イノベーション・キャンパスへと変革させ、世界に伍する国際共同研究拠点を創出し、資金循環による自立的経営の実現を目指しています。
【岡山大学】地域と地球の未来を共創し、世界の革新の中核となる研究大学 ~持続可能な社会を実現させる10年構想~
岡山大学のビジョン
岡山大学は、このJ-PEAKSを本学の長期的ビジョン「岡山大学ビジョン3.0」及び「岡山大学ビジョン2050」を達成するための大きな一歩として捉えています。
岡山大学は、J-PEAKSを起爆剤として、「社会変革を先導できる大学となれるのか。そしてそのために大学自らが変革できるのか」という命題を解いていきたいと考えています。
また、岡山大学は、大学法人経営の根幹に「不易流行」を置いています。「不易」とは、本学に関わるマルチステークホルダーのwell-beingの実現を追求すること、「流行」とは、社会情勢を見極め、国立大学法人として、政策や地域の思いを先取りし先導する改革・人材育成・教育研究と定義しています。J-PEAKSにおいても、この方針のもと、4つの取組を進めてきました。
世界と伍するイノベーションとトップ研究者の育成システムの実現
一つ目は、研究の卓越性を先鋭化させる「高等先鋭研究院システム」の構築です。研究分野間の競争性を保ちつつ、研究IRに基づいて大学が強みを持つ研究領域にリソースを傾注することで、横連携により研究の厚みを生み、世界と伍するイノベーションとトップ研究者の育成システムの実現を目指しています。
共生型連合体を設置し社会変革を推進
二つ目は、「イノベーション創出によるWell-being社会の実現」です。岡山大学は、「国家戦略特別区域(デジタル田園健康特区)」に指定されている岡山県吉備中央町の「吉備高原都市スーパーシティ構想」推進協議会にリードアーキテクトとして参画し、DXを軸に産学官連携により誰一人取り残されないコミュニティ創生を先導しています。また、同じく国家戦略特区にキャンパスを置く大阪大学、筑波大学、山梨大学と連携して「共生型連合体」を設置し、アカデミアの立場から国家戦略特区を盛り上げ、社会変革を推進しています。
三つ目は、イノベーション創出のメッカとなる研究基盤の整備です。特に、先端設備の充実と技術人材の高度化によるシナジー効果を生み出すことが研究基盤を整備する上で重要です。また、施設整備事業による共創イノベーションラボ棟の整備を通じて、岡山大学が知の実装と社会の共創機能を担っています。
知識により社会変革を起こすナレッジワーカーを育成
四つ目は、知識により新たな価値を創造し、社会変革を起こす「ナレッジワーカー」の育成です。組織改革や意識改革を通して、事務職員・技術職員を高度化することで研究者と対等に大学運営に携わることのできる環境構築を目指しています。また、研究者、URA、技術職員や事務職員間を相互に行き来できる複線型人事制度の導入や、教員の機能分化による研究活動最適化などの人事改革にも取り組んでいます。さらに、特徴的な取組として、技術系職員の組織化を行いました。技術職員を1つの組織に統括し、前技術職員を統括する部長級のポストを作り、職階を整理し、キャリアパスを明確化しています。
○ 岡山大学「大学院修学支援制度」を始動
○ 岡山大学「大学院修学支援制度(2024年後期)」認定式を挙行
岡山大学は、まず自分自身(大学)の組織・制度改革なくして、社会変革の実現も研究大学への昇華もあり得ないという思いのもと、J-PEAKSを起爆剤として大学全体の研究力強化・組織風土改革・価値向上を目指しています。そして、しがらみ・しきたり・岡大中心主義などを廃し、我が国全体の研究力の発展を牽引していくこととしています。
【広島大学】放射光による物質の視える化技術を核とした半導体・超物質及びバイオ領域融合型産業集積エコシステムの実現
異分野融合エコシステム「Hi-RIV」の形成
広島大学は、卓越した研究力を中心に「人・知・資源の好循環」のハブとなる異分野融合システムを形成し、半導体・超物質及びバイオ領域の融合型産業集積エコシステム「Hiroshima Research & Innovation Valley (Hi-RIV)」の実現を目指しています。
広島大学には、国立大学では唯一の世界的にも希少な「紫外線域の放射光実験施設」があります。この施設を利用した放射光による視える化技術を核として、WPIやCOI-NEXT等の学内研究拠点を有機的に連携させ、そこで生まれた研究成果を産業界へ展開するためのシステムの構築に取り組んでいます。
○ WPI:キラルノット超物質拠点(SKCM2)
○ COI-NEXT:Bio-Digital Transformation (バイオDX)産学共創拠点
J-PEAKSを通じて、連携機関等との共同研究を強力に推進するとともに、国際的に卓越した融合研究を生み出し、イノベーション創出及び地域課題解決に繋げていこうとしています。また、経営基盤の強化に関しては、産学官金の連携を活用して大学発スタートアップ及びベンチャーへの支援を実施し、資金・知・人材の好循環によるエコシステムを構築することで、大学の経営基盤強化による自走化を目指しています。
ブースターチームと学内シンクタンクの設置
J-PEAKSの運営体制として、関係理事を構成員とした「J-PEAKS推進部会」を組織し、KPIの管理や組織改革、戦略的資源配分の方策に関して意思決定を行っています。また、URA・知財・社会実装等の専門家によるブースターチームを置き、各重点研究拠点の橋渡しを担うと共に、拠点間のシナジー効果を評価し助言を行う学内シンクタンク「XBrain」を設置し、大学全体を俯瞰したサポート体制を構築しました。
組織的・機能的改革と研究力強化に向けた経営戦略
組織的・機能的改革の具体的な進捗として、このプロジェクトを動かすメインエンジンのひとつ、広島大学「半導体産業技術研究所」が主導する「せとうち半導体コンソーシアム」への参画企業数が申請時より12社増加し、申請時の5年後KPIを前倒しで達成しました。また、治験薬の製造及び実習を担う本学「PSI GMP教育研究センター」においては、産学官連携によるコンソーシアムを発足し、令和6年8月にキックオフイベントを開催しました。研究力強化に向けた経営戦略における進捗としては、前述のスタートアップ創発に向けた支援に加え、若手研究者に対する支援や、研究成果の発信力強化に向けた制度拡充を推進しています。
以上の取組を通じて、広島大学のビジョンを実現すると共に、J-PEAKS採択大学のひとつとして、その役割をしっかりと果たしていくこととしています。
【沖縄科学技術大学院大学】OIST-neXus戦略|国際卓越性追求、破壊的イノベーション創出、沖縄振興、ゲートウェイ機能強化
One OIST戦略
沖縄科学技術大学院大学(以下、「OIST」という。)は、2029年までの5カ年戦略「One OIST戦略」を策定し、7つのミッションエリアに沿って、2034年までに17の課題に取り組み、大学の改革を推進します。このJ-PEAKSを通じて、特に「研究力の卓越性」、「イノベーション」及び「地域から世界レベルへ」という3つの原動力を相互に結び付けることによって、OISTやパートナー機関、そして地域の可能性を最大限に引き出すこと目指しています。
OISTのような設立から間もないユニークな大学が直面する様々な課題を克服することで、世界のトップレベルの大学と伍する研究大学へと成長することを目指しています。
OIST-neXus戦略:4つのneXus(繋がり)を強化
現在、大学が抱える課題を将来の伸びしろに変えるために重要となるのが、「OIST-neXus戦略」です。具体的には4つの「neXus(取り組みの全体像を捉えた相補的な繋がり)」を強化することとしています。
一つ目は「学内の連携強化」です。基礎研究から産学連携事業が分断されることなく、教授陣一体として恩恵を受けられるよう、ダイナミックな研究連携クラスターや学内の横断的な繋がりを強化しています
二つ目は「国内外の産学官金ステークホルダーの開拓・連携」です。社会の多様な視点を理解することによって、21世紀に大学に求められる役割を積極的に共創しています。
三つめは、「学内施設の共同利用促進」です。科学、技術、イノベーション及びアウトリーチの発展のために、OIST施設の学外開放や、責任ある共同利用を推進しています。
四つ目は、「好循環をもたらすゲートウェイ機能」です。これら3つの繋がりの強化や新規プロジェクトの実施を通して、国際共同研究や若手研究者の頭脳循環等の実現を目指しています。
オープンイノベーションを推進
これらの実現には、他の大学との連携が不可欠です。特に、医学・人文科学・社会科学分野に強みを持つ慶應義塾大学との連携によって、新たなビジネスパートナーシップの構築を図り、国内都市部をターゲットとしたビジネスチャンスの拡大に取り組んでいます。また、国家戦略でありOISTのミッションの中核でもある「沖縄振興」の理念のもと、琉球大学との連携を強化し相互の経験値を共有することで、持続可能で豊かな沖縄の発展に貢献しています。
これらの取組を支えるのが、これから新設する2棟のオープンイノベーション施設である「OIST-land-neXus」及び「OIST-sea-neXus」の施設です。既存施設やコアファシリティとも連動させて一体的な利活用を促進しています。
OISTは、J-PEAKSを通じて、日本と世界の架け橋となり、日本の研究力強化を牽引する研究大学群のモビリティや連携を推進すべく、積極的に貢献していくことを目指しています。
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令和5年度採択された12大学の取組紹介は、以上となります。
「J-PEAKS」という名称には地域の中核大学や特色ある研究大学が、それぞれに強みや特色をさらに発展させ、多種多様な頂が連なる山脈のごとく、存在感を発揮していくことを期待として込めております。昨年度採択された大学には、学長のリーダーシップの下、大学ビジョンの実現に向けた取組を確実に進めていただくとともに、その成果について広く発信し、我が国全体の研究力向上を牽引いただきたいと思います。
文部科学省としても、日本学術振興会と一体となって、各大学の10年後のビジョン実現に向けて伴走支援を引き続き行なってまいります。
文部科学省では地域中核・特色ある研究大学強化促進事業の取材をお待ちしております。報道関係者の皆様におかれましては、お気軽に科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課拠点形成・地域振興室にお問い合わせください。
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