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【活火山法改正】火山本部始動|火山調査研究を一元的に推進

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▶  2024年4月、文部科学省に火山調査研究推進本部を設置。
▶  政府として火山に関する調査研究を一元的に推進。
▶  火山専門人材の育成とあわせて、活動火山対策をさらに強化。
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日本は111の活火山を抱える世界有数の火山国で、過去に何度も噴火による大きな被害を経験してきました。そのため、これまでも大学や研究機関、行政機関が、火山に関する調査研究や火山研究人材の育成を進めてきました。しかし、火山噴火による被害を減らすためには、噴火の時期や位置、規模、様式、噴火の推移を的確に予測することが重要です。火山活動が活発化した際に備えるためにも、調査研究をさらに進めることが急務となっています。
 
このような背景から、2023年に活動火山対策特別措置法(活火山法)が改正され、火山に関する観測、測量、調査及び研究を一元的に推進する、政府の特別の機関「火山調査研究推進本部」(火山本部)が2024年4月1日に文部科学省に設置されました。ここでは、火山本部の役割や火山研究人材の育成等について紹介します。

「桜島」(出典:気象庁ホームページ)

世界有数の火山国、日本

日本には111の活火山があり、世界の活火山の約7%が集中する世界有数の火山国です。火山は、温泉や景観など、私たちの生活に恵みを与えてくれる一方で、噴火によって甚大な被害をもたらすことがあります。 

日本の活火山分布図

2014年9月に、長野県と岐阜県の県境にある御嶽山で噴火が発生しました。噴火時は、好天に恵まれた週末の昼前で多くの登山者が山頂付近にいたため、噴火による被害は死者・行方不明者63名、負傷者69名にのぼりました(2015年11月6日現在;総務省消防庁)。この時の噴火は水蒸気噴火とされ、マグマ噴火に比べて予測が難しく、さらに火口付近に登山者や旅行者等がいるような場合には、小規模な噴火でも大きな被害をもたらすことが改めて明らかになりました。
 
そのほかにも、鹿児島県の桜島は大規模な噴火の可能性が指摘されています。桜島では、1914年(大正3年)1月に、日本における20世紀最大の火山噴火とされる大正噴火が発生しました。流出した溶岩により島の西側にあった複数の集落が埋没し、海峡が閉塞して大隅半島と陸続きになりました。この大正噴火から110年が経過した現在、地下にあるマグマだまりには、大正噴火発生当時と同等量のマグマが蓄積されていると推定されており、次の大規模噴火に備える必要があります。

さらに、山梨県と静岡県の県境にある富士山では、調査研究により従来分かっていた場所よりも市街地近くに新たな火口位置が特定され、富士山での想定される火口範囲が広がりました。また、火山ハザードマップのシミュレーション結果では噴火による影響範囲も拡大しました。

法改正と火山本部の役割

このような火山をめぐる状況から、噴火災害が発生する前に活動火山対策の更なる強化を図るため、2023年に活動火山対策特別措置法が改正されました。

この法改正をうけ、火山に関する観測、測量、調査及び研究を推進するため、2024年4月、火山調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣)が設置されました。

火山調査研究推進本部の看板除幕式(2024年4月1日)

これまでも大学や研究機関、行政機関で火山に関する調査研究がそれぞれで行われてきましたが、新たに設置された火山本部が政府の司令塔となって、火山災害の軽減のために一元的に火山の観測や調査研究を推進し、火山活動を適切に評価することになりました。

以下が火山本部の役割です。
①火山に関する観測、測量、調査及び研究の推進について総合的かつ基本的 
 な施策の立案
②関係行政機関の火山に関する調査研究予算等の事務の調整
③火山に関する総合的な調査観測計画の策定
④火山に関する観測、測量、調査又は研究を行う関係行政機関、大学等の調
 査結果等を収集し、整理し、及び分析し、並びにこれに基づく総合的な評
 価の実施
⑤総合的な評価に基づく広報

火山本部には、政策委員会と火山調査委員会の2つの委員会を設置しています。政策委員会では前述のうち①②③⑤を、火山調査委員会では④を担当します。政策委員会では、火山調査研究に関する総合基本施策や調査観測計画を策定し、それらに基づき、大学や研究機関、関係行政機関が観測、測量、調査及び研究を実施します。その後、それらの成果を収集、整理、分析して総合的な評価を行うのが、火山調査委員会です。

火山調査研究推進本部の概要

火山本部の事務局は文部科学省が務め、火山調査委員会には、国土地理院及び気象庁も事務局に参画しています。また、火山本部では、火山調査研究が活動火山対策の強化に役に立つよう、防災を担う内閣府(防災担当)や国土交通省等とも連携しています。
 
4月の発足以降、本部会議、政策委員会、火山調査委員会の各会議を開催し、運営方法や当面の活動について審議しました。

第1回火山調査研究推進本部会議(2024年4月8日)

火山に関する専門人材の育成と確保

火山現象を科学的に理解し、適切な防災対策につなげていくためには、火山に関する専門人材の育成と確保が重要です。

文部科学省では、2014年9月に発生した御嶽山の噴火を踏まえ、2016年度から10か年のプロジェクトとして、「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」を実施し、大学や地方公共団体等と連携しながら、幅広い知識と高度な技能を持つ次世代の火山研究者を育成してきました。

次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトの概要
火山研究人材育成コンソーシアム参画機関(2023年12月現在)

このプロジェクトにおいては、2023年度までに166名の受講生を受け入れ、キャリア形成の支援を行っています。

修了生は、大学や研究機関のほか、気象庁等の国の機関や地方公共団体等に就職するなど、着実な成果を上げています。

火山研究人材育成事業修了生の就職先

一方で、火山研究者の数は依然として十分ではなく(火山噴火予測研究者数117名(2022年度、科学技術・学術審議会測地学分科会における調査))、「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」での研究者育成に加えて即戦力となる火山人材の育成が急務となっています。また、火山防災の実務を担う地方公共団体等における専門人材のニーズは高く、地方公共団体等の実務者の専門知識·技能の取得や、能力の向上を促すことも課題です。これらのことから、文部科学省では、2024年度より「即戦力となる火山人材育成プログラム」を新たに開始します。このプログラムでは、専門性の高い大学等において、火山研究者を目指す社会人への学び直しの機会の提供や、関連分野の研究者等の火山研究への参画促進、地方公共団体等における実務者への火山の専門知識・技能の取得支援等を行うことで、幅広い知識・技能を習得した即戦力となる火山研究・実務人材の育成を図ることを計画しています。

おわりに

火山災害を軽減するためには、火山調査研究の成果を適切に防災対策に活用することが重要で、関係機関が十分に連携・協力する必要があります。文部科学省では、火山に関する観測、測量、調査及び研究を一元的に推進するとともに、火山に関する専門人材の育成等に引き続き取り組んでまいります。


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「ミラメク」2024年夏号 記事


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