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【博士をとろう!】未来を担う博士人材が多様なフィールドで活躍できる社会を実現するには(インタビュー)

2024 年3月26日、文部科学大臣を座長とする「博士人材の社会における活躍促進に向けたタスクフォース」において、「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」を取りまとめました。大目標として「2040年における人口100万人当たりの博士号取得者数を世界トップレベルに引き上げる」ことを掲げています。

博士・ポスドクの進路多様化は、約20年前から科学技術・学術審議会人材委員会や中央教育審議会大学分科会で審議されてきましたが、この新プランでどのような変化が期待されているのでしょうか?実際に博士号を取得している文部科学省職員を交えて、高等教育企画課と人材政策課の担当者に話を聞きました。

「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」担当職員

博士を世界トップレベルに 大臣自ら座長としてけん引

――なぜ今「博士人材」なのでしょうか。今回のプラン作成の背景についてお聞かせください。

髙見(英):世界を見渡すと、博士人材が様々な分野のトップで活躍しており、英国やドイツなどは博士号取得者数が増えています。ところが、日本で
は「博士=研究者」というイメージが強く、博士人材の活躍の場が限られている現状
があります。その結果、人口当たりの博士号取得者数は他国に比べて伸びていません。博士人材は専門性に加えて、分析力や論理的な説明力など幅広い能力を持っています。これからの日本社会が国際的に信頼されるためにも、博士人材が多様な社会の場で活躍できる基盤と環境を整え、博士人材を増やすことが必要だと考えています。

(出典)科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2023」を基に文部科学省作成

―― 今回のプランのポイントは何でしょうか。

髙見(暁):今回のプランで新しい点は、博士号取得者を増やすなら出口の保障も必要ですので、「産業界との連携」を大きく打ち出した点です。博士
人材の幅広いキャリアパス開拓を推進
していきます。国際機関や自治体、教員など様々なキャリアパスがありますが、特に産業界に関しては、文部科学大臣名で「博士人材の活躍促進に向けた企業の協力等に関するお願いについて」という文書を、2024年3月26日付けで約1,300の経済団体・業界団体等の長宛てに発出しました。

また、約20年前のいわゆる「ポスドク一万人計画」では、ポスドクの経済的支援に取り組んできましたが、経済的支援のみならず、キャリアパス支援を博士課程学生に対して行うことが必要ではないかという議論になりました。最近では、2021年度から「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」がスタートし、その中で大学が博士後期課程学生の多様なキャリアパスの整備を行うための支援を行っています。

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博士課程で培った考え方・経験を生かして活躍

―― 文部科学省ではすでに多くの博士人材が活躍しています。博士のお二人に、博士課程での研究と文部科学省での業務について、さらに博士課程で学んだことがどのように業務に生かされているのかについて伺います。

水戸:私は生物化学を専門に研究していました。文部科学省では、科学技術系の部署や初等中等教育の部署を経て、現在は大学院教育を担当しています。

「博士まで行ってなぜ研究者にならなかったのか」とよく聞かれますが、学部生の頃に研究機関でのインターンシップを通して研究環境の整備や研究者支援に興味を持ち、早くから文部科学省に関心を持っていました。大学院教育にも問題意識を持ち、専門分野だけでなく様々な分野で活躍できる博士人材を育てようという「博士課程教育リーディングプログラム」も履修していました。博士の研究に加えて、リーディングプログラムで異なる分野の学生とのチーム研究や国内外でのインターンシップを経験したことは、多様な視点で様々な関係者と政策を立案する際に役立っています。

對崎:私は農学部で微生物の研究をしていました。入省してから宇宙開発、環境エネルギー、量子技術など専門外でも幅広く科学技術政策を立案し、今は若手研究者や博士課程学生の養成や支援を担当しています。課題設定から解決策を見いだして検証するプロセスが行政の仕事に近いため、博士課程で研究する中で培われてきた考え方が生きています。

大学等のアカデミアだけではなく、産業界や官公庁で働くロールモデルとなる博士卒の先輩方の姿を見てきました。研究者が主体的に研究していける環境が大事だと感じ、私たちのような博士号を取得した人が大学等の現場と行政をうまく繋いでいくことができるのではないかと思いました。そのため、省庁の中でも科学技術政策の根幹にある文部科学省を志望し、現在多くの研究者と関わる中で博士号を取得しておいて良かったと感じます。

安心して博士号を取得するために
―経済支援と将来の展望―

―― 博士課程に進みたいけれど「経済的見通しが立たない」、「就職が心配」といった理由で迷っている高校生や大学生に向けて、どのようなメッセージがありますか。

髙見(暁):博士後期課程学生を対象とした処遇改善を行うため、文部科学省では1人当たり年間約290万円(生活費相当額、研究費、キャリアパス整備費)を年間約1万800人に支給できるよう予算を確保しておりますので、活用していただきたいと思います。意欲のある方が安心して博士課程に進学し、修了後は社会の様々なフィールドで活躍できるよう、産業界の皆様などと連携しながら改善をしていくところです。

髙見(英):身近にロールモデルがいることが大事です。大学の中でも、学部学生が博士課程学生に会う機会をつくり、さらに中学・高校生の段階から博士の活躍を知る必要もあると思います。博士になるためには、探究心を持ち自分で課題を見つけて解決していく考え方を身につけることが大切です。小・中・高等学校でも探究学習をより重視するようになっています。未来を担う博士人材を増やしていきたいと考えています。

―― 「学生本人への動機づけ」として、具体的にはどのような取組をされていますか。

髙見(暁):2023年度から、博士の強みや魅力をわかりやすく発信するイベントである「未来の博士フェス」(文部科学省・JST共催)を開催しています。博士課程学生を対象にしつつ、学部や修士の学生、大学関係者、博士採用に興味のある企業にお声がけをしています。企業やスタートアップで活躍する博士人材の話を聞いたり、自分と異なる研究分野の人と幅広いネットワークをつくったりすることもできます。次回は2024年7月10日に開催いたします。

未来の博士フェス(文部科学省・JST共催)

また、「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」指定校で博士人材が高校生のロールモデルとなるよう、『博士教諭』の採用を積極的に推進していきます。

―― 大学の意識改革についてお聞かせください。

髙見(英):博士課程に進学しても学位取得に時間がかかっている分野もあります。これも進学を躊躇する要因の一つだと考えられますので、博士課程を標準修業年限内に修了した学生の割合などを大学に公表してもらうことを検討しています。情報公表を促すことで、大学院教育の改善を図りたいと考えています。大学間連携や国際連携の取り組みを支援する仕組みづくりにも取り組んでいます。

多くの人が質の高い学びを実現できる環境づくりを

―― 今後取り組んでいかれることを教えてください。

髙見(暁):今年度は産業界にロールモデルの選定や情報提供をお願いしてまいります。企業での活躍促進を図るための次の一手は、経済産業省と一緒につくる手引き・ガイドラインです。企業と繋がり、どのような困難があるのかヒアリングしながら進めていきます。

―― 読者の皆様へのメッセージをお願いします。

髙見(英):世の中が複雑化して高度な知識や知見が求められる中、高度専門人材が社会でますます求められます。未来を担う若者にぜひ博士を目指していただきたいですし、産業界や教育関係者の皆様には若者が博士を取りたいと思える社会の実現に向けて、文部科学省と共に積極的に取り組んでいただきたいです

さらに、社会人の博士を増やしていく必要もあります。人生100年時代、リスキリング(※)やリカレント教育が求められる中、働きながら知識や能力をアップデートし、社会に還元していける機会を持てるよう、企業にも環境づくりをお願いしております。大学院にも、働きながら学べる柔軟な仕組みをつくっていただき、より多くの人が質の高い学びを実現できる環境にしたいと思っています。

(※)リスキリング(Reskilling):職業能力の再開発、再教育

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【コラム】博士人材を採用するメリットは?
文部科学省の採用担当者に聞きました


中澤 恵太 人事企画官

Q1.文部科学省で何人の博士人材が働いていますか? 
A. 文部科学省では100人を上回る博士人材が、文部科学行政の推進に従事しております。これは常勤職員の約5%に相当します。また、近年の採用実績として、総合職採用者数のうち、1割程度が博士課程修了者となっております。

Q2.文部科学省の職員として、博士人材にはどのような点を期待していますか?
A. ①企画・創造性、②分野専門性、③国際性の3つの観点からの活躍を期待しています。①は、試行錯誤しながら、俯瞰的視野を持ち、エビデンスに基づいて政策を開拓する能力です。また、②は博士号取得分野に関する専門的な知見や人的ネットワーク、③は深い知見に裏打ちされた信頼に基づき、国際的な交渉・協調を進める力です。特に①は、博士が大学において培った能力を、行政という違うフィールドで活かしていくものです。

Q3.①企画・創造性についてもう少し詳しく説明してください。
A. 学術研究においては、対象を絞り込み、実験・分析を重ねながら仮説を構築し、一定の結論を導き出していきます。このプロセスは、政策づくりでも同様の構造となります。即ち行政では、政策課題を特定し、関係者へのヒアリングや、データ収集・分析を重ね、当該課題を解決する具体の施策(予算措置や制度改正等)を提案し、実行していきます。博士の皆さんは、本人が意識しているかは別として、自ずとこうした能力を身につけているのです。

Q4.博士人材の採用や人事配置において留意している点はありますか?
A. 博士課程修了者は学部卒業生より5年遅れて入省することが一般的です。文部科学省では博士人材のポテンシャルを高く評価し、特に優秀な博士職員には昇任・昇格を早める特例を設けることとしました。これにより、管理職になる時期までに5年分の遅れを取り戻すことが可能です。
また、博士人材の専門性や国際性を活かし、適材適所のキャリア形成を行っています。さらに、働きながら修士・博士の学位を取得する職員への支援や、幹部職員としての登用を増やす計画もあります。これにより、組織全体の学び直しの意欲を高めることを目指しています。


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「ミラメク」2024年夏号 記事

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