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【新たな教育振興基本計画】持続可能な社会の創り手の育成と日本社会に根差したウェルビーイングの向上をどう実現するか(Interview)

2023年6月16日、第4期となる新たな教育振興基本計画が閣議決定されました。予測不可能な社会において、今後5年間の教育政策をどのように導くか。藤江陽子・文部科学審議官(インタビュー当時 総合教育政策局長)に、この計画について聞きました。

藤江陽子(ふじえ ようこ)文部科学審議官
1988年文部省入省。大臣官房審議官(高大接続・初等中等教育局担当)、スポーツ庁次長、総合教育政策局長などを経て、2023年8月より現職。趣味は散歩、音楽鑑賞。


―― 新たな教育振興基本計画のポイントは何でしょうか?

今後の教育の方向性を示す羅針盤となるべきものを目指し、「持続可能な社会の創り手の育成」及び「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の2つを大きなコンセプトとして掲げました。その下に5つの基本的方針を定め、16の教育政策の目標、基本施策及び指標を示しています。


未来を見据えた持続可能な社会の創り手の育成

―― 今後必要とされる人材育成への取組について教えてください。

「持続可能な社会の創り手」の育成に向けては、社会課題と経済成長を結びつけてイノベーションに繋げることや、一人一人の生産性の向上に向けた取組が重要です。

新たな計画では、大学や高等学校などで、文理横断・文理融合教育や探究・STEAM教育を推進するとともに、理工系分野における女性活躍、デジタル・グリーンをはじめとする成長分野の人材育成に向けた取組を進めることとしています。

―― 今回、新たに教育デジタルトランスフォーメーション(DX)が基本的な方針の1つに取り上げられました。

第3期計画から大きく進んだことが、GIGAスクール構想による1人1台端末です。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、社会全体でデジタルを活用していくことの重要性が飛躍的に高まりました。教育DXは今回の計画を通貫する1つの柱になっています。

ICTを使うことが日常化するとともに、教育データを駆使して学びや働き方が変革するよう取組を進めていきたいと考えています。


「古くて新しい」私たちのウェルビーイング

―― なぜ「日本社会に根差したウェルビーイング」という新しい考え方が示されたのでしょうか。

ウェルビーイングとは身体的・精神的・社会的に良い状態であることを表すもので、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含む概念です。現在、国際的にも注目されている考え方ですが、その背景には、経済先進諸国において、経済的な豊かさのみならず、精神的な豊かさや健康までを含めて幸福や生きがいを捉えることが重視されてきていることがあります。

ウェルビーイングには個人が達成・獲得する能力や状態に基づく獲得的な要素と、人との関わりや関係性に基づく協調的な要素があるとされています。欧米諸国では、「自分ならできる」と信じる力があることや自尊感情が重視されますが、日本においては、学校や地域との繋がり・社会貢献意識など、人との関係性に基づく要素をより重視しています。この両者を調和的・一体的に育む「調和と協調に基づくウェルビーイング」として、日本社会に根差したウェルビーイングの実現を目指しており、この考え方はG7教育大臣会合でも発信して成果文書に盛り込まれました。

―― 「ウェルビーイング」という言葉に違和感がある人もいるのではないでしょうか?

計画策定の基となった中央教育審議会(以下、「中教審」)の議論の中でも、最初は横文字の表現に抵抗を感じた委員もいました。日本語で表現できないかを議論したこともありましたが、審議を進めていく中で理解が深まり、最終的にはそのまま使うこととなりました。「ウェルビーイング」という言葉を使って考え方を整理していく過程が実りのある議論につながるきっかけになったと感じています。

言葉自体は新しいのですが、これまでも学校教育において目指されてきたことです。いわば「古くて新しい」概念だと思っています。ウェルビーイングは、国や地域、一人一人の置かれた状況によっても異なる多様なものです。みんなで議論をして“私たちのウェルビーイングとはなにか?”を考えてもらえればと思います。

■ 教師のウェルビーイング、学校・地域・社会のウェルビーイング

みんなの意見を盛り込んで…

―― 新しい考え方が示されたり、多くの内容が盛り込まれたりしており、学校現場の負担が増えるのではないかという声もあります。

計画には、子供たちのウェルビーイングを高めるために、教師のウェルビーイングを確保することが必要であることを明記しています。学校の働き方改革、処遇改善、指導・運営体制の充実の一体的推進を、スピード感をもって進めていくこととしており、中教審でも取組を進めるための議論が始まっています。先生方が志気高く誇りをもって働けるよう、文科省としても環境整備に全力で取り組んでいきます。

―― 計画策定にあたり、「対話」を重視されたと聞きました。

今回の計画の策定に当たっては、教育関係の様々な団体からのヒアリングのほか、小中高生や大学生との意見交換やアンケート、教育現場の先生方や教育長との対話を行いました。また、省内の若手・中堅職員有志による次期計画懇話会(ジキコン)を開催し、文科省内での対話も行いました。対話を通じて職員が計画を自分事として捉えられるようになると思います。これからも対話は継続していきます。

―― 最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

教育政策の道筋を示す羅針盤とも言うべき新しい計画が出来上がりました。今後5年間、この計画に基づき教育政策を進めていきます。各自治体でも、国の計画を参考にしつつ、「対話」を通じて地方での計画を策定していただきたいと思います。各地域で求められる人材は何か、自分たちの考えるウェルビーイングとは何かといったことをぜひ議論し、各自治体における計画の策定や取組に反映していただけたらと考えます。


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「ミラメク」2023年夏号 記事

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