【質の高い日本語教育を目指して】日本に暮らす誰もがより豊かな生活を送れる社会へ(インタビュー)
日本で暮らす外国人は2023年に約322万人に達しました。今後も増加傾向が続くと見られる中、日本語教育の重要性が高まっています。日本語教育の推進は、日本で暮らす外国人が社会から孤立することを防ぎ、誰もが円滑な生活を送ることのできる環境に繋がります。
日本語教育の質の向上のため、2023年6月2日、日本語教育機関認定法が公布され、日本語教育の適正かつ確実な実施のため、日本語教育機関の認定制度と日本語教員の資格制度が創設されました。
法律制定に関わった、中原裕彦 内閣審議官(命)文化戦略官、今村聡子 文化庁国語課長、小林克嘉 文化庁国語課日本語教育推進室長の3人から、この制度について聞きました。
これまでの日本語教育の課題
中原:日本語を母語としない日本語学習者に対して、日本語教育を提供する教育機関は多くありますが、教育の質を担保する公的な仕組みがなかったため、その内容や日本語教員の質は学校ごとに異なっていました。そのため、日本語を母語としない日本語学習者の立場に立つと、日本語教育機関が発しているメッセージとカリキュラムのサービス内容が一致しないこともあり、こういったミスマッチをなくすために、教育の質を保証するための仕組みを作ることが必要でした。外国人が日本で生活する上で、日本語を身に着けてもらうことはとても重要です。そこで、関係者の意見を取り入れながら、「日本語教育機関の認定制度」と「日本語教員の資格制度」を作ることになりました。
これから始まる2つの新制度
中原:日本語教育機関のうち、文部科学省が定めた一定の要件を満たせば「認定日本語教育機関」として認定されます。認定日本語教育機関には、質の高い教育を外国人に提供するため「登録日本語教員」が在籍しなければなりません。登録日本語教員になるには、日本語教員試験に合格し、実践研修まで修了する必要があります。
小林:日本語教員試験には、基礎的な知識からなる「基礎試験」と、基礎的な知識を活用した問題解決能力を測る「応用試験」の2つの試験があり、この2つの試験に合格すると、実践研修を受けることになります。これは教育実習の日本語教員版のようなもので、実際に教壇に立つ実習を必須としています。日本語教員試験は来年度から行われ、来年度については試験を1回実施し、この試験に合格後、45時間以上の実践研修で修了となるよう計画しています。
中原:この日本語教育機関認定制度は、日本に住む外国人が日常・社会生活を円滑に営むことができるように作られた制度です。登録日本語教員になった教員が認定日本語教育機関で働くことで、教育の質を担保できる仕組みとなっています。
様々な背景を持つ人々のため、多様な教育を
―― 新制度の検討にあたり、特に考慮したのはどのような点でしょうか?
中原:認定制度、資格制度のスキームだけを見るとシンプルで整理されているように見えるかもしれません。しかし、一様に日本語教育機関と言っても、留学・就労・生活等、それぞれの目的に対応した教育を提供する必要があります。留学の在留資格で日本に来る外国人だけではなく、就労や家族の関係で在留する外国人にもそれぞれの目的に合った形で教育を提供するために、この制度がきちんと機能するのかについて、文部科学省(文化庁)内だけでなく、法務省や経済産業省、自治体等、様々な機関と連携を取りながら議論を重ねていきました。
認定制度を中心に好循環を生み出す
―― 新しい制度を導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
今村:情報公開の点では、文部科学省がポータルサイトを多言語で作成し、認定を受けた日本語教育機関名を一覧化して公表します。外国にいる学習者は、そのサイトにアクセスすることで、各日本語教育機関のホームページに飛んで、具体的なカリキュラムの情報を知ることが可能です。また、認定を受けた日本語教育機関は、文部科学大臣が定める表示を広告等に出せるので、生徒を募集する際に、教育の質が担保された教育機関であることをアピールできるメリットがあります。
中原:今の説明にあったように、まず1つ目は学習者が日本語教育機関を選ぶときに、どの機関が自分に合っているのかホームページで分かるようになり、日本語教育機関が公表しているサービス内容の品質を信じられるようになることです。2つ目は、日本語教員の資格制度を作ることで、たとえ認定機関で働かなくても、有資格者であることを生かして、自治体や企業といった様々な場所で活躍してもらえるようになります。日本語教育のニーズはいろいろなところにあるので、資格を起点として、キャリアプランの発展と活躍機会が増えるのではないかと思います。
資格を通してキャリアアップへ
―― 今までボランティア等で日本語を教えていた人たちからは、資格を取らなければ日本語を教えられなくなるのか、という不安の声もあります。
中原:結果から言うと、資格がなくても教えられなくなるわけではありません。特に地方では、ボランティアの皆様の取組なしには日本語教育が成り立ってこなかったと言えるほど、ボランティアの方々の存在は大きいです。そのため、資格試験を1つのオプションとして受験してもらうことで、有資格者としてキャリアアップに繋げられると思います。今まで豊富な知識と経験を持っていても、それが給与として十分還元されていない部分がありましたが、登録日本語教員になることで、キャリアアップを通じて経済的に還元されるようになることを目指しています。
今後のスケジュールは
―― 現在施行前の最終段階として、どのような項目を検討しているのでしょうか。
今村:日本語教員試験の受験料、日本語教育機関が認定を受けるにあたっての基準等の検討を同時並行で進めています。何年も前から、日本語教員に必要な能力は何かについて長く議論してきました。その報告書を土台として、文化審議会の下にワーキンググループを立ち上げ、委員の方やパブリックコメントで皆様からいただいた意見を取り入れて議論をしています。オープンな状態で議論をしており、案文が変わっていく様子を見てもらえるようになっているので、ぜひ見ていただければと思います。
スケジュールとしては、年明けには制度周知のための説明会を行う予定です。来年の4月1日に法律が施行され、そのあといよいよ認定の手続きが始まり、2024年秋頃に第1号の認定日本語教育機関が誕生することになります。
運用するだけではなく、見直しを繰り返してより発展した制度へ
―― 日本語教育の質を維持、向上していく上で大切なことは何でしょうか。
中原:まずはしっかりと法律を施行した上で、関係者やユーザーである外国人の声に耳を傾け、制度を運用しながら適宜見直しをし、この制度を新しい行政ツールとして発展させていく必要があります。そうして発展させていくことが、教育の質の向上に繋がると思います。
今村:教育は従来、1つの定まったカリキュラムの基準のもとで、みんなが同じ基準を用いることが前提となっていました。今回は多様な人の経験や実績を反映させ、教育の質を高めていこうという取組であり、教育行政としては1つのチャレンジです。既に日本に来ている外国人が、よりよい環境で日本語を学べるようにするための制度なので、日本語教育機関、日本語教員の皆様がそれぞれ今までしてきたことを、この制度導入を機に振り返ってもらい、「さらにステップアップしていこう」という気運を共有してほしいと思います。
小林:日本語教員の質を担保することが何より大事です。登録日本語教員になったあとの研修にも忘れずに力を入れていきたいです。
来年4月より、日本語教育機関の認定制度が本格的に運用されることで、日本語が母語ではない日本語学習者が、自分にあった質の高い教育を受けられるようになるため、より円滑に日常・社会生活を営めるようになります。日本語を学べる環境がきちんと整備されれば、外国人の生活の満足度向上にも繋がります。それと同時に、日本語教員の資格が国家資格化されることで、日本語教員の重要性が社会的に認知されるようになり、さらに活躍の場が広がっていくことが期待されます。
日本で暮らす誰もが豊かな生活を送ることができるよう、日本語教育の質の向上に向けて取組を加速していきます。
詳しい情報はこちら→ 日本語教育|文化庁
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「ミラメク」2023年秋号 記事
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