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東京都府中市発!メキシコの在外教育施設へ 先生の挑戦

 変化の激しい今の時代において、教師は社会の変化を的確に掴み取り、多様な価値観を受け入れながら学び続けることが求められています。

 文部科学省では、外国で生活する日本人の子供に対し、国内同等の教育を受ける機会を確保することを目的として、「在外教育施設派遣教師制度」を設け、在外教育施設に対する教師の派遣(2年間)を行っています。これは、教師の国際性を培うことを目的とした施策の一環としても実施されています。全国の1,294人の教師が在外教育施設に派遣されており(令和5年4月時点)、府中市では2017年以降、小学校教諭1名、中学校教諭2名が派遣されました。

 今回はこの制度を利用し、2017年にメキシコの日本メキシコ学院日本コースへ派遣され、1年延長して計3年間メキシコシティで過ごした、府中市立府中第七小学校の森山 暁生先生の体験談と、先生を送り出した自治体が期待することについてご紹介します。


始まりは、「グローバル人材の育成って何?」

 森山先生は、図工専科の教師として東京都に採用され、小学校で図工を教えていました。海外留学の経験はなく、海外を特に意識したこともありませんでした。しかし、東京都や国がグローバル人材育成の重要性を訴えている中、「実際に自分の目で海外を見てみないと子供たちにグローバルな視点を教えられないのでは?」と感じるようになりました。そして在外教育施設について調べてみると、親の海外赴任に伴って、海外の学校に通っている子供たちがいることが分かり、その子供たちのために何かできないか、と考えるようになったことが、在外教育施設派遣教師制度に応募したきっかけでした。

 派遣には、12月末に採用が決まって4月から派遣がスタートする即派遣と、採用から派遣まで1年間の準備期間がある派遣の2種類があり、森山先生は「どちらでもよい」を選択したところ、即派遣になりました。選考試験に向け、在外教育関連の情報を手に入れられる、文部科学省のサイト「CLARINET」を見てイメージを膨らませました。また、自分の人生の中に日本らしい要素があるか振り返って、大学で工芸を専攻していたことや、過去に地元の盆踊りで太鼓を叩いた経験等、日本の伝統的な部分に触れてきたことを面接でアピールし、無事に採用試験に合格しました。

在外教育、帰国・外国人児童生徒教育等に関するホームページ「CLARINET」


周りの人に支えてもらった現地での生活

 森山先生にはご家族(妻と2人の娘(派遣当時8歳と5歳))がいます。「メキシコに行くことになったので、一緒にメキシコに来てほしい」と伝えたところ、妻は大賛成で娘たちは大号泣という全く正反対の反応でした。子供たちが大号泣したのは、自分たちが、日本語が通じない現地の学校に通うことになると思って不安になったためでしたが、日本語が通じる学校に行くと分かると安心してすぐに泣き止んでくれたそうです。前向きな気持ちで一緒に行ってくれる決心をしてくれたご家族の存在は、森山先生にとって大きな支えになりました。

 メキシコはスペイン語圏です。派遣が決まると、出発までの間、車の中でスペイン語のCDを流して、簡単な挨拶と数字程度までは覚えました。現地に住んでからは、週末に市場へ行って現地のお店の人と会話しながら、徐々に上達していったそうです。また、先に派遣されていた先生から、スペイン語の家庭教師やお手伝いさんを紹介してもらえたので、家族も日常生活に困らない程度のスペイン語を話せるようになりました。また、メキシコには自分の考えをきちんと主張する文化があるため、娘さんたちも自然と自分の言葉で意見を言えるようになり、学校生活が刺激的で面白いものになったといいます。


「死者の日」 メキシコ ・ミスキックにて


仕事はハード、 でも大きなやりがい

 森山先生が派遣された日本メキシコ学院は、日本人向けの日本コースのほかに、メキシコの教育システムに準拠したメキシココースが同じ敷地内にあるため、メキシコ人と一緒にするクラブ活動があったり、交流授業があったり、国際色豊かな学校でした。

 日本コースには小学校と中学校が併設されており、森山先生は小学校の学級担任をしながら、中学校の美術と技術を教えることになりました。今まで専科で図工を教えていたため、学級担任の業務と中学生を教える業務は初めてです。「教科を教える」という部分にできるだけ多くの時間を費やしたいと思い、日本にいた時と生活リズムを変えて、授業の準備時間を最大限確保できるよう工夫しました。慣れない業務も多く、仕事は日本にいた時よりハードでしたが、その分新しい業務のやりがいはとても大きく、楽しい時間だったといいます。また、この3年間の経験を通して、担任をもつ先生の気持ちや、中学美術や技術にどう繋がるのかを理解できるようになりました。

 在外教育施設では、小中学校が一緒に教育活動を行うことが多いため、森山先生のように、小中連携教育の理解が深まることが期待されています。

日本と海外、それぞれの良さを授業で紹介

 帰国してから感じたことは「日本は島国だなぁ」ということでした。人の目を気にして自分をアピールできなかったり、日本文化の良さを認識できていない部分があったり…自分らしさ、日本らしさを生かしきれていなくてもったいない!と思ったそうです。

 そこで、帰国後の授業では、日本の強みである漫画やアニメの文化をもっと授業の中で紹介してみようと考えました。森山先生は、漫画やアニメというと子供のイメージが強いと感じていましたが、メキシコでは大人も日本の漫画やアニメが好きで、それを公言している人が多くいます。派遣前は、図工作品にキャラクターを入れることを禁止していましたが、今後日本の子供たちが世界に出ていくことを考えると、題材によっては漫画やアニメの要素を入れるのも良いのではないか、という考えに変わったそうです。

メキシコ ・ 日墨会館にて

 また、漫画やアニメといった現代的な文化だけではなく、伝統的な文化も知ってほしいという思いがあり、小学1年生の授業では昔ながらのつくり方で張り子のお面を製作して日本の伝統工芸の素晴らしさを伝えているそうです。そして、小学3年生では同じような張り子のやり方でピニャータ(メキシコで有名な、中にお菓子を入れたくす玉のこと)を製作し、子供たちが日本と海外両方の伝統文化に触れる機会をつくっているといいます。このように、現地の人との交流や異文化理解の経験を生かして、海外文化を学ぶ要素を普段の授業に取り入れ、国際理解教育を心がけているそうです。

図工室にて児童の作品 「ピニャータ」

自分の経験を他の先生へ

 東京には「東京都海外子女教育・グローバル教育研究会」という団体があり、森山先生は帰国後この団体に所属しました。研究会には、海外へ行くことを目指す先生と、派遣から帰ってきた先生が所属しており、先生同士で海外へ行く前にやっておくべきことや、派遣時の体験談等の情報交換をしています。森山先生は自分が持っている情報が古くならないよう、情報をアップデートしつつ、海外を目指す先生のために、自身の経験を積極的にお話ししているそうです。中には海外の在外教育施設とオンラインで繋いで授業をしている先生もおり、海外での経験を生かして活躍する姿に刺激をもらえるといいます。

 森山先生は、派遣前は漠然と「ずっと図工の先生としてやっていくのだろう」と思っていたそうですが、海外生活を経験したことで管理職を目指したくなったといいます。「自分の経験をもっと多くの子供や先生たちに伝えたい」という気持ちが強くなり、管理職になった方がよりその思いを形にできるのではないか、と感じているそうです。「海外で学んでいる子供たちの手助けをしたい、という思いから始まった派遣でしたが、逆に勉強させてもらったな、というのが率直な感想です。海外に興味がある先生はもちろん、興味のない先生もぜひ挑戦してほしい」と森山先生は語ります。

教師を送り出す意味と自治体の期待

 自治体側からすると、海外へ送り出すというのは、経験のある教師を一定期間派遣することになるため、学校現場にとっては大きな負担となります。しかし府中市教育委員会の鈴木さんによると、府中市としては、より多くの先生に、多様な価値観を尊重して適切な関係を築いていく力や国際感覚を身に着けてもらいたいという思いがあるようです。豊かな経験を通して培った学びを、子供たちへの日々の指導に生かしてほしい、とのことでした。

 府中市では、グローバル人材の育成を目指し、「世界とつながる 英語 Enjoy Week」や「未来へつなぐ府中2020レガシー」等の教育活動を行っており、子供たちの視野を広げ、思考を深めるための国際理解教育を推進するため、在外教育施設教員派遣制度に挑戦した先生たちが一翼を担って活躍しています。これからの学校教育では、地域や関係機関、外部団体等の多様な人たちと協働して教育活動を充実させていくことが求められ、教師は多様な価値観を創造していくための調整力や対話力を身に着けることが必要となっているので、派遣を通してより多くの先生が、教師としての資質・能力を高め、市の教育の充実に貢献することが期待されていると鈴木さんはいいます。

 海外在留の子供たちの教育を受ける権利を保障するために始まった在外教育施設派遣教師制度ですが、多くの先生方にこの機会を利用していただくことで、培った知見が日本の教育課題を解決し、ひいては教育の質を向上していく好循環が生まれ始めています(※)。


(※)総務省の実証的共同研究の一環として実施した調査で、派遣を経験した教師とそうでない教師に対し、10年前と現在の自己の能力に関する認識についてアンケートを行うほか、第三者の立場として、学校管理職へのアンケートを実施し、教師にかかる3つの資質・能力が、派遣経験によって伸びるというエビデンスが示された。→ 詳細(PDF)


【府中市の魅力】

豊かな自然と歴史に彩られた名所が盛りだくさんの府中市。
その魅力の一端をご紹介。

自然

馬場大門のケヤキ並木
大正13年(1924年)に全国で2番目に国の天然記念物に指定され、ケヤキ並木として天然記念物の指定を受けているのは、日本でここのみ。約1000年の歴史をもつと伝えられている府中市のシンボル。名前の馬場大門は、馬場中道ともいい、かつては大國魂神社北端の一の鳥居から、南端の二の門に至る全長約600mの参道を指し、その馬場大門だった道路は、現在けやき並木通りと呼ばれている。

文化

武蔵府中郷土かるた
昭和48年(1973年)、府中の歴史、文化、自然などたくさんのすばらしさを知ってもらえるよう願いを込めて発行され、50年を超えて多くの方に親しまれ、受け継がれている。また、読み札(文字札)は、市民からの公募により作成され、取り札は、赤羽末吉の手書きによるもの。市内各所にかるたの内容に合わせた標識が設置され、現在も毎年市内の小学校で配布されている。

歴史

大國魂神社
景行天皇41年に大國魂大神からのお告げを受けて創設したとされ、大化元年(645年)、大化の改新以降に国府が置かれたことを機に、武蔵国内の諸神、さらには国内著名の6ヶ所の神社をここ1ヶ所に集めて祀ったことから「武蔵総社六所宮」と称された。

スポーツ

スポーツタウン府中
府中市はスポーツタウン府中として、市内を活動拠点とする、次の6つのトップチーム等との連携と協働により、スポーツ振興を始め、様々な取組を進めている。 ①東芝ブレイブルーパス東京(ラグビー)②東京サントリーサンゴリアス(ラグビー)③FC東京(サッカー) ④アルバルク東京(バスケ)⑤府中アスレティックフットボールクラブ(フットサル)⑥読売巨人軍/読売ジャイアンツ女子チーム  (野球)


東京都府中市
東京都のほぼ中心に位置し、人口は約26万人。今から1300年ほど前に武蔵国の国府が置かれ、早くから政治、経済、文化の中心地として栄えてきた。令和6年度には、市制施行70周年を迎え、歴史と文化が薫る街で希望があふれる未来を育てていく意思をイメージしたキャッチコピー「歴史が息づく。未来が芽吹く。」が市民等の投票により決定。
〒183-8703 東京都府中市宮西町2丁目24番地
TEL:042-364-4111(代表)


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「ミラメク」2023年秋号 記事

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