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部活動改革 〜学校から地域へ、より豊かなスポーツ・文化芸術活動への扉〜(ポイント解説)

 今年度より、休日の部活動の地域連携・地域移行が始まりました。これからだんだんと、休日の部活動は学校単位ではなく、地域クラブ活動として地域で実施するようになります。

 スポーツ庁・文化庁は、「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を 2022年12月に策定し、2023年度からの3年間を「改革推進期間」と位置づけました。

 休日の部活動について、合同部活動や部活動指導員の配置により地域と連携することや、学校外の多様な地域団体が主体となる地域クラブ活動へ移行することについて、地域の実情等に応じて可能な限り早期の実現を目指すよう、各自治体にお願いしています。しかし、地域によって事情も課題も様々です。「部活動の地域連携・地域移行と地域スポーツ・文化芸術環境の整備」という大改革について、疑問にお答えします。


2023年度から2025年度までの3年間を改革推進期間として地域連携・地域移行に取り組みつつ、地域の実情に応じて可能な限り早期の実現を目指す

地域クラブ活動では、3校のユニフォームが入り混じって活動する。

激変する子供たちの部活動

 ここ15年ほどで、運動部活動を巡る環境は激変してきました。中学生世代の人口数は30年で約3割、90万人強が減少すると推計されているだけでなく、2007年度から2021年度にかけて、1運動部当たりの参加人数は 19.1人から16.4人へ、運動部活動の参加率も中学全体で64.98%から58.10%へと、少子化よりも速いペースで子供たちの「部活離れ」が進んでいます。競技別生徒数の推移を見ても、サッカーや軟式野球は2013年から40%、生徒数だと約10万人も減少しており、また、合同部活動実施チームも2013年から比べるとサッカーで7.3倍、軟式野球で4.7倍と、いまや従前と同じ学校単位での部活動の実施が困難になってきているのは明らかです。更に、中学校における部活動設置数の減少は、やりたい部活動が自分の中学校にないなど、生徒のニーズに応えられない状況になっています。

(出典)中学校在学者数:「学校基本調査」/1運動部あたりの人数・運動部活動数:日本中学校体育連盟による調査

部活動の地域連携・地域移行ってそもそも何?

 「部活動の地域移行」は、地域の多様な主体が運営・実施する地域クラブ活動によって、部活動を代替するものです。学校とも連携しながら、多様な活動を可能な限り低廉な会費で実施します。

 一方、「部活動の地域連携」は複数校でまとまって一つの部活動とする合同部活動の導入や、部活動指導員等の地域の人材を活用することにより、あくまで学校で運営・実施しつつも、生徒の活動機会を確保するものを指します。

地域移行=民間委託?

 部活動の地域移行は、必ずしも民間に委託することを指してはいません。地域クラブ活動の運営団体・実施主体は、地方公共団体や、総合型地域スポーツクラブ、スポーツ少年団、体育・スポーツ協会、競技団体、文化芸術団体、民間事業者等の地域の多様な主体が想定されています。

 また、民間の競争原理が働くことで、活動が限られてしまったり、高額な費用負担が生じたりすることを懸念する声もありますが、地域クラブ活動はあくまで学校と連携して行うものであり、社会教育、スポーツ・文化芸術の一環として位置付けられるものです。そのため、地域の実情に応じながらではありますが、できる限り低廉な会費を設定することなど、できる限り子供に多様で豊かな活動を提供できるよう、ガイドラインで在り方が定められています。

部活動改革は先生のため?

 メディアなどでは教師の長時間労働の解消のために部活動改革が行われると言われています。部活動改革の発端の一つには教師の働き方改革もありますが、大きな目的としては、将来にわたって、子供たちがスポーツ・文化芸術活動に継続して親しむ機会を確保することです。子供のニーズに応じた多様で豊かな活動を確保するためには、これまでの学校単位での体制の運営は困難ですし、専門性や意思に関わらず教師が顧問を務める指導体制の継続は、子供のためにも適切とは言えません。

部活の教育的意義が失われてしまう?

 学校部活動は体力や技能の向上を図る目的以外にも、学習意欲の向上や自己肯定感、責任感、連帯感の涵養に資するなど、生徒の自主的で多様な学びの場としての教育的意義を有してきましたが、この意義を地域クラブ活動に継承していく必要があります。また、地域クラブ活動だからこそ創出できる新しい価値もあります。

 例えば、子供や大人、高齢者や障害者の参加・交流を推進する地域スポーツ・文化芸術活動に生徒が一緒に参加できるようにすると、多世代での豊かな交流が新たな学びをもたらしてくれるでしょう。

 また、平日はテニスをしていても土日は伝統芸能を学んだり、春はサッカー・夏は美術・秋は卓球・冬はスキーというようなシーズン制の活動を行ったりと、「○○ 部」の枠にとらわれないからこそ、自分の興味や可能性を広げることができます。

会費や送迎などの保護者負担増?

 確かに、指導者等の人件費について受益者負担が無か ったこれまでの部活動とは違って、地域クラブ活動では、その運営団体・実施主体が継続的・安定的に充実した活動機会を提供するためにもきちんと対価を払うようになり、これまで部費等で集められていた以上の費用がかかることが予想されます。一方で、家庭の経済格差が生徒の体験格差とならないため、国・地方公共団体においては、 生活困窮世帯への支援を行っていく必要があります。

 また、送迎については、例えば富山県朝日町では、住民が有料で自家用車に相乗りして移動する取組を子供の習い事の送迎にも利用できるようにするため、『こどもノッカル』の実証実験を開始しており、地域移行における移動手段としての活用も検討するなど、自治体の創意工夫で対応することも可能です。

地域クラブ活動じゃ大会に参加できない?

 2022年7月には、スポーツ庁長官から日本スポーツ協会、日本中学校体育連盟等に、大会の在り方の見直しについて要請しました。特に、大会の参加資格については、日本中学校体育連盟において、「全国中学校体育大会開催基準」が改正され、2023年度から初めて地域のスポーツ団体等の参加が認められた大会が開催されました。一方で、競技や都道府県等によっては、地域のスポーツ団体等の大会参加に一定の制約が設けられている場合もあり、2023年度の状況を踏まえた見直しを求めています。

 また、文化庁からも、全日本吹奏楽連盟等に対して同様の要請を行いました。全日本吹奏楽連盟においては、加盟団体に関する登録規定等が改訂され、2023年度から各支部等の判断で、県大会又は支部大会までの中学生地域バンドのコンクール等への出場が認められることになりました。さらに、2024年度からは全国大会に出場できるよう改訂される予定です。

地方では指導者が集まらない?

 全国的な先進事例である長崎県長与町では、2023年4月から町内3つの中学校の休日の運動部活動全てを地域スポーツクラブ活動に移行しています。人材は「発掘」するものとして、町の教育委員会が積極的に人材確保に動いた結果、同年6月時点で、477名の生徒に対して、91名の指導者、29名の大学生ボランティアによる体制で実施しています。

 また、個別の自治体だけでなく都道府県レベルでも指導者育成研修会の開催、研修コンテンツの作成・提供、人材バンクの設置、企業等への働き掛けを行っている例もあります。

 さらに、ICTを活用して効果的・効率的な技術指導・トレーニング指導を行う事例もあります。また、指導者と言っても全員が全員その競技について専門的である必要はありません。このように様々な工夫を行うことにより、無理のない指導体制を構築することが必要です。

うちの地域はやらなくていい?

 全国的に少子化が進んでいる以上、地域クラブ活動への移行は将来的に必要になります。また、専門性や意思に関わらず教師が顧問を務めている指導体制の継続は、子供により良い環境を提供するという観点からも適切とは言えません。そして、必要になったときに、急に地域の指導者、運営団体・実施主体等を考え始めるのでは手遅れになりかねません。

 地域スポーツ・文化芸術環境を構築していくということは、まちづくりとしての側面も有しており、都道府県・市町村が「どんな地域にしたいか」「地域の子供たちにどんなスポーツ・文化芸術機会を提供したいか」という観点から主体的に検討を進めて行くことが重要です。

 また、将来にわたって子供たちがスポーツ・文化芸術に継続して親しむ機会を確保するため、そして今の子供たちのニーズに応じた多様で豊かな活動を実現するためには、都道府県・市町村レベルでの地域スポーツ・文化芸術活動の推進体制の整備と、地域の実情に応じた検討が不可欠です。スポーツ庁が本年6~7月に行った調査によれば、協議会等の設置を端緒としつつ、2023年度中には部活動改革に乗り出そうとしている市区町村が7割にも上ることが分かっており、既に先進的な自治体では各種課題への対応に係る好事例も出てきています。

【2022年度事例集(PDF)】
運動部活動の地域移行等に関する実践研究事例集 ~令和4年度地域運動部活動推進事業より~
文化部活動の地域移行に関する実践研究事例集 ~令和4年度地域部活動推進事業及び地域文化倶楽部(仮称)創設支援事業より~

最後に

 部活動改革は、行政や学校関係者だけでなく、当事者である生徒のみなさまや保護者の方々、スポーツ団体や文化芸術団体を始めとした地域の方々、あらゆる方々が関係者です。関係者の皆様におかれては、部活動の地域移行に関する実証事業の予算等も活用いただきながら、ガイドラインや通知、事例集等も踏まえ、部活動の地域連携・地域移行への御理解・御協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


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「ミラメク」2023年秋号 記事

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