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【文化庁】京都移転から1年|地域と共に歩む、文化芸術による地域創生

文化庁が京都に移転し、1年が経ちました。中央省庁が東京に集中している状況を是正し、地方創生を目指す取組の一環として文化庁の移転計画が進められ、初めての中央省庁の地方移転として、2023年に京都での業務がスタートしました。文化庁が京都に移転することで、文化行政の新たな展望が開かれることが期待されています。

京都移転から1年が経った今、京都に移転して実感していることや、この1年間での活動、今後の見通しについて、文化庁京都担当の日向 信和 審議官にお話を聞きました。

日向 信和(ひなた のぶかず)
文部科学省大臣官房審議官(文化庁京都担当)。 1993年文部省入省。文化庁政策課長、文部科学省大臣官房総務課長などを経て、2023年3月より現職。休日は家事に専念。

新たな文化行政の拠点、京都

――京都移転の経緯と目的は。

政府関係機関の東京一極集中を是正するため、2015年3月、政府は東京都を除く道府県に対して地方移転の提案募集を出しました。その中で、京都府など数か所の自治体より文化庁移転の提案が提出され、2016年3月、文化庁が京都に全面的に移転することが決定しました。2017年4月に先行移転として地域文化創生本部という組織を京都に設置し、一部の職員がそこで業務をスタートさせました。その後、移転に向けた準備を重ね、2023年3月27日より文化庁全体が京都で本格的に業務をスタートしたのです。

単なる東京一極集中の是正にとどまらず、グローバル展開やDX、観光や地方創生に向けた文化財の保存活用をはじめとする、新たな文化芸術の展開を進めることを目的として京都で活動しています。

文化庁京都移転祝賀の集いと京都庁舎除幕式

――移転に伴い「食文化推進本部」「文化観光推進本部」が新設されました。

文化庁の京都移転を契機に、2025 年大阪・関西万博への貢献も見据えて「食文化推進本部」と「文化観光推進本部」を新たに設置しました。関係する施策の全国展開を図ることを目的とし、全国各地における食文化や文化観光の推進を通じた地方創生と、地方公共団体との更なる連携を推進しています。

食文化推進本部では、食文化の魅力発信や、食文化に関する顕彰の充実に向けた取組を進めています。また、文化観光推進本部は、地域の宝である文化財について、官民連携で新しい価値を創造し、持続可能な活用を推進するため、文化財の活用を図る民間人材の配置や、相談窓口の設置、セミナーの全国開催、文化財を高付加価値化する事業を進めています。

文化庁外観

地域に根付き、文化芸術の新たな価値を全国へ波及

――この1年でどのような活動を行いましたか。

これまでとの違いで言えば、京都府や滋賀県の若手職員との勉強会を開催し、彼らとの対話の中で文化や歴史への理解を深め、政策立案を考える「共創・連携活動」を行っています。文化庁の若手職員が、京都府・京都市の職員とともに丹波漆の生産地を訪問したり、滋賀県・大津市の職員とともに石山寺に行って文化観光をテーマに意見交換をしたりしました。

京都府・京都市の職員との交流の様子

京都府、京都市、京都商工会議所などからなる文化庁連携プラットフォーム主催による文化庁移転記念コンサート「きょう ハレの日、」をはじめ、様々なイベントが開催されてきました。「地方創生」というキーワードを中心に地域との絆も深めようとしています。

――具体的な成果はありましたか。

昨年7月には、文化庁と関西の経済団体が連携し、関西全体で文化芸術立国の実現に取り組むことについて、関西広域連合、関西経済連合会などと共同宣言を出しました。官民一体となって我が国の文化芸術の国際発信とグローバル展開にビジネスの観点を取り入れて戦略的に取り組む CBX(Cultural Business Transformation)の推進に資する大きな一歩だと感じています。こういった経済団体との連携によって文化を観光やビジネスと繋げ、日本の文化芸術を世界に発信していきます。今後も全国で文化と経済の好循環に向けて自治体や経済界との連携を進めていこうと思っています。

このように、地方創生のために関西発で一丸となって新しい文化行政の取組をしていこうとする活動は、京都に移転したことが契機となりました。こうした京都移転を契機とした文化振興の新たな展開は2024年度当初予算にも反映されています。文化庁の仕事を進めていくうえで大きな変化です。

文化庁・関西広域連合・関西経済連合会・ 文化庁連携プラットフォーム共同宣言の様子

――そのほかに全国的な変化はありますか。

文化庁の移転を契機に、文化政策に力を入れていこうとする自治体が出始めています。食文化推進本部と文化観光推進本部の設置に伴い、昨年4月には地域における食文化と文化観光行政のさらなる推進について全国の自治体に向けて通知を出しました。石川県では食文化と文化観光の施策を部局横断的に進めるための本部を立ち上げ、滋賀県では文化庁との連携を強化するための担当部署が設置されました。

今までの文化政策は、文化財を保護したり、舞台芸術の支援など文化芸術の振興が主でした。これからはこういった政策にとどまらず、観光や食、経済といった周辺領域との繋がりを強化しながら、新たに生み出される価値を全国の文化芸術の継承・発展、創造や活用に波及させていく予定です

国会対応・災害対応も変わりなく

――移転によって業務形態に変化はありましたか。

業務のデジタル化にも積極的に取り組んでおり、東京にいた時よりもWeb会議システムを利用する機会が増えました。専用のテレビ会議システムも導入しました。こうしたデジタル技術を活用した新しい働き方によって、移転前と同等以上のパフォーマンスを出すように努めています。

今年1月に発生した能登半島地震についても、これまでと変わらず迅速な災害対応を行っています。文化財にもかなりの被害が発生しました。文化庁は各自治体や国立文化財機構と連携して専門職員の現地派遣を行っており、被害状況の早急な把握と緊急的な保全に取り組んでいます。今後も被災状況に応じて必要な支援をしっかりと行っていきます。

京都から日本文化の魅力発信を

――京都ならではのエピソードはありますか。

今年1月には、京都市とナイト・カルチャーをテーマにシンポジウムを共催したのですが、その会場は能楽堂でした。全国からたくさんの参加者がありました。会場を能楽堂に選ぶのは京都ならではの発想かと思います。

ほかには、職員が京都マラソンに参加して、京都府・京都市と一緒に国内外から参加する1万6千人を超えるランナーに向けて日本文化の魅力とそれぞれの活動を紹介するPRブースを出したりもしました。

京都マラソンでのPRブース

都倉長官は、祇園祭や時代祭など京都の大きな祭りにも参加しました。祇園祭では若手職員達も山鉾の曳き手として京都の街を練り歩きました。事前に祇園祭の歴史を学ぶ勉強会を開き、参加した職員から「祭りの意味がよく理解でき、京都ならではの経験ができた」という声を聞いています。実際に地域のイベントに参加することで、より文化への理解が深まっていると感じています。

――今後の文化行政について展望を教えてください。

2023年度の補正予算には、文化財の保存・修理、クリエイターの育成支援の基金確保などを盛り込みました。2024年度の当初予算は、京都移転を契機とした文化振興の新たな展開に必要な経費を盛り込んでいます。具体的には、歴史ある町並みや城郭など、地域の誇りである文化財の保存活用の一体的な推進や、伝統的酒造りなど和食の魅力発信、地域の伝統食の振興といった、食文化の振興加速化に必要な経費に重点を置いています。こういった予算を活用して、関西だけではなく、全国でも文化庁の京都移転による変化とその成果を感じてもらえるよう、新たな文化行政を展開していきたいと思っています。

移転してきた時から全国の文化芸術関係者と意識的に交流することを心掛けており、都倉長官と各界の著名人との対談をシリーズ化する取り組みも始めています。文化庁のYouTubeチャンネルで対談動画を配信しており、京都の文化芸術関係者との対談も進めているところです。

『Meeting Wisdom』文化庁長官 都倉俊一が第一線で活躍する方々の英知を引き出す対談

京都は千年の都と言います。長い歴史のある街に身を置いてようやく1年が経ったところです。小さな一歩を歩み始めたところですが、文化庁を多くの方に知っていただき、文化芸術による地方創生を実現していきたいと思います。

このインタビューもWeb会議システムを用い京都−東京間で行った


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