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学校という「場」のウェルビーイングの醸成に向けて ~全国学力・学習状況調査から分析するウェルビーイング~

令和5年6月に策定した第4期教育振興基本計画(以下「第4期計画」という。)では、コンセプトの一つとして、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を掲げています。これまで「地域発!教育振興基本計画×実践事例レポート」の各記事で、各地域・学校で考えるウェルビーイングを高める様々な実践事例も取り上げてきました。

様々な取組を紹介してきましたが、実際のところ、児童生徒のウェルビーイングには、どのような要素が、どのくらい影響しているのでしょう?
 
今回の記事では、第4期計画におけるウェルビーイングについて、令和6年6月25日に開催された第138回中央教育審議会における内田由紀子委員の発表(令和5年度全国学力・学習状況調査ウェルビーイングに関する分析報告書(PDF))を基に考えたいと思います。

第4期計画におけるウェルビーイングの定義

同計画において、ウェルビーイングは「身体的・精神的・社会的に良い状態」として定義づけられ、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる 持続的な幸福を含む概念とされています。学校においては、子供だけではなく、教職員や地域社会を含む、多様な個人が、学校との関わりを通じて、それぞれに多様な幸せや生きがいを感じることができるような場づくりが求められています。
下図のように、ウェルビーイングは子供のみならず広く教師、職員、地域社会に広がるものです。

教育振興基本計画における教師、学校、地域・社会の包括的ウェルビーイング

教育に関連するウェルビーイングの要素

そして、第4期計画においては「教育に関連するウェルビーイングの要素」として、自己肯定感、心身の健康、幸福感(現在と将来、自分と周りの他者)、協働性、社会貢献意識、学校や地域でのつながり、自己実現(達成感、キャリア意識等)、安全・安心な環境、多様性への理解、利他性、サポートを受けられる環境を挙げています。

「これらを、教育を通じて向上させていくことが重要であり、その結果として特に子供たちの主観的な認識が変化したかについてエビデンスを収集していくことが求められる」としています。

では、これらの要素には、具体的に何が関わるのでしょうか。

学校という「場」のウェルビーイングの分析

令和5年度全国学力・学習状況調査における質問調査項目を用いて重回帰分析を行うと、主観的な「幸福感」に対しては、小学校、中学校のどちらともに共通して「友達関係」が最も高い関連を持っており、次いで高い関連を持つ変数は「教師サポート」であることが見えてきます。「自己肯定感」についても同様に高い関連が見られます。少なくとも同調査に回答している児童生徒においては、周囲の友達や教師との関係性が主観的幸福感を支えていることがわかります。
なお、「教師サポート」については、学習だけでなく困りごとへの相談など、生活面も含めた、多様な場面での教師等のサポートが関連していると考えられます。

主観的幸福感を従属変数とした重回帰分析結果

このほかにも、小学生においては、各教科について、授業の内容が理解でき、好きだと感じている、あるいはそれらが大切であり、将来の役に立つと感じていることが、主観的幸福感にとって重要であるという結果となっていました。他方で「成績」や「社会経済的背景」は主観的幸福感との関連は低いことを示す結果も見えています。

詳細:令和5年度全国学力・学習状況調査ウェルビーイングに関する分析報告書(PDF)

(参考)共分散構造分析の結果

※共分散構造分析とは、互いに関連を持つ複数の要素間の関係性やその程度をモデル化する分析のこと。
- 小は小学生、中は中学生を表す。
- 片方矢印は標準化係数であり、絶対値が大きいほど被説明変数(矢印の先の項目)への影響力の大きさを示す。
- 両矢印は相関係数であり、二つの変量の関係を表す係数。
- 値が1に近いほど、強い相関関係を表す。すべて0.1%水準で有意。

まとめ

児童生徒の主観的幸福感を向上させる上で、友達との関係、教師との関係など、他者とのつながりが重要な役割を果たしていることが見えてきました。
このため、子供たちのウェルビーイングを高めるにあたっては、子供たちへのサポートが持続可能になるよう、サポートの提供者である教師へのサポート体制の整備などによって教師のウェルビーイングを向上させることも重要です
また、児童生徒が自ら好きな科目に打ち込めるような学習環境や、学習指導なども求められ、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善など、様々な取組が重要であることも分かりました。

引き続き、第4期計画で掲げた「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の相互循環的な実現に向けて、各自治体や学校での計画策定や取組に活かせるよう、本連載での具体的な取組紹介等に取り組んでいきます。

(関連動画)内田由紀子・中央教育審議会委員による「計画ポイント解説~ウェルビーイング編~」


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