G7富山・金沢教育大臣会合の集大成として「富山・金沢宣言」を発表しました
5月14日(日)、G7富山・金沢教育大臣会合において、「富山・金沢宣言」が取りまとまりました。
この会合では、議長である永岡桂子文部科学大臣の進行のもと、「コロナの影響を踏まえた今後の教育の在り方」を全体テーマとし、G7各国、EU、UNESCO、OECDからの代表者が、活発に意見を交わしました。
G7各国間で、自由・平和、法の支配と民主主義の価値観を共有するとともに、G7が目指す今後の教育の方向性について合意しました。
また、今後、G7においてハイレベル政策対話の継続的な実施に向けて取り組んでいくことについても合意しました。
G7 教育大臣会合「富山・金沢宣言」(日・英)、概要(日・英)は以下のとおりです。
以下、G7 教育大臣会合「富山・金沢宣言」の全文です。(内容はPDF内と同じ)
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G7 教育大臣会合「富山・金沢宣言」(仮訳)
私たち G7 各国の教育担当大臣は、2023年5月12日から15日、日本の文部科学大臣を議長として、ここ富山・金沢の地に集まった。
1. 世界は今、教育を巡る様々な危機に直面している。コロナ禍は、世界各国の社会・経済システムに大きな影響を与えた。教育も例外ではなく、多くの学校やその他の教育機関が長期間の休校を余儀なくされ、子供や学生、学習者の学習機会が危機にさらされた。
また、ロシアのウクライナ侵略により、子供や学生の教育を受ける権利が奪われるとともに、国際的な交流が停滞している。私たちは、国際法に違反するロシアによる侵略を断固非難するとともに、ウクライナの子供や学生、特に女子をはじめとする危機的な状況にある世界中の子供など、全ての人が包摂的かつ公平で質の高い教育にアクセスできるように取り組む。
私たちは、民主主義や自由、法の支配や平和の礎としての教育の普遍的価値を支持する。持続可能な開発のための 2030 アジェンダ及び持続可能な開発目標(SDG)4の精神に基づき、持続可能な開発のための教育(ESD)を奨励し、持続可能な社会を創造できる人材を育成するとともに、全ての人が質の高い教育及び生涯学習にアクセスできるようにし、国際的な交流を促進するために協働していく。
2. コロナ禍がもたらした教育における危機は、教育システムが抱える脆弱性を顕在化させる一方で、教育・学習システムの未来を再考・強化していくための契機となった。
私たちは、ポストコロナ社会のニーズに応え、学習上の損失を回復するため、また、全ての学習者に包摂的かつ公平で質の高い教育へのアクセスと、各国の社会的・経済的文脈に応じてウェルビーイングを追及することができる機会の提供を支援するため、より強靭な教育システムの構築へ向けて取り組む必要性を強調するとともに、教育の場面におけるウェルビーイングを実現していく。さらに、私たちは、生成 AI を含めた近年のデジタル技術の進展は、学習や指導に好機をもたらすと同時に、教育システムに対して課題を提示していることを認識する。
本会合で私たちは、子供、学生、学習者や、教員、校長や全ての関係者の声や参加の重要性を認識しつつ、これらの目標をどのように達成するかについて議論し、G7 各国において以下の施策を進め、この目標に向かって取組を続けていくことに合意した。
3. 第一に、学校は多様な他者を尊重し、包摂的な社会を形成するための重要な基盤であり、コロナ禍によって明らかになった学校の本質的な役割を、維持・発展させていくことが極めて重要である。学校は、対面での教育や協働的な学びの機会を提供するとともに、子供が安心できて、受け入れられていると感じることのできる居場所・セーフティネットとしての役割を果たしている。これによって、学校は子供の心と身体の健康を支えることを含めて、ウェルビーイングを高める役割を担っている。私たちは、学校のこの役割が今後も変わらず発揮されるよう全力を尽くしていく。
コロナ禍における学校閉鎖や様々な教育活動の制限等により、十全には発揮されなかった学校教育の役割の回復に向けて、私たちは、学校とより広いコミュニティが相互に連携・協働する活動の推進により自然体験・文化芸術体験活動の機会を充実することで、社会情動的スキルの向上を図っていく。また、学校で勤務する心理カウンセラーなどの専門的職員と教師が連携し、チームとして子供の心の健康やウェルビーイングを支えることも重要である。
そして、従来の対面による教育に加え、コロナ禍を契機として進展したリアルとデジタルを効果的に融合した教育の促進に向けて、私たちは、情報コミュニケーション技術(ICT)環境の整備を継続していく。また、教師の ICT スキルの向上に取り組む
とともに、子供がデジタルを活用するにあたって責任と知識を持ちながら、新たに生じる可能性と課題についても自ら取り組むことができるよう、情報活用能力に係る教育を充実させる。
4. 第二に、子供たち一人一人のウェルビーイングの向上につなげていくため、私たちは、幼児教育を含め全ての子供に包摂的かつ公平で質の高い教育へのアクセスを保障していく。そのため、一人一人の子供にとっての個別最適な学びを進め、互いに学び合う機会を確保していく。今後の教育においても、教師と生徒の対面によるやりとりが引き続き最も重要であることから、対面による教育を置き換えるものとしてではなく、補完するものとして年齢や発達段階に応じたデジタルの活用を奨励する。デジタルの格差が悪化しないようにしつつ、教育を目的とした生成 AI の利用を含むがこれに限らず、教育のデジタル化の推進に伴う課題を継続的に把握し、リスクを軽減するこ
との重要性を認識する。
また、私たちは、学校段階間及び学校とより広いコミュニティとの連携・接続を図る。能力のある、十分な支援を受けた教職の価値を認識し、教師の指導力向上に向けて、世界水準の養成や専門的な研修の機会に教師がアクセスできるよう取り組むほか、良質な幼児教育を支援し、質の高い優秀で意欲のある教師の確保や学校の指導・運営体制の整備を行う。また、教師のウェルビーイングを支える文化の構築に向けて学校とともに取り組むとともに、教師が本来の業務に専念出来る環境づくりを図る。これには、少人数学級の推進や教師が担う業務の適正化、処遇を含む働きやすい労働条件などが、それぞれの国・地域・地方の事情に応じて含まれ得る。
私たちは、それぞれの国における教育制度の相違を尊重しつつ、障害、言語・文化、地理的・文化的出自、民族、社会経済的状況、性的指向・性自認、いじめや不登校などの課題に関わらず、全ての子供の可能性を引き出す教育の実現に努めていく。障害のある子供の教育においては、特に障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に協働的に学ぶための環境整備と、一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整備を同時に進める重要性について認識を共有する。
5. 第三に、私たちは、人口変動、デジタル化、脱炭素化などの地球規模の社会変化への対処に貢献するイノベーションと持続可能な経済成長の促進を目的として、教育・人材育成を支援することを目指す。コロナ禍及びロシアのウクライナ侵略により世界経済は大きな影響を受けており、国連教育変革サミット(TES)でも言及されたように、教育が貧困の撲滅や包摂的な経済成長、気候変動への対処に大いに貢献できることを認める。また、教育は SDGs の全てのゴール達成の基礎であることから、相互に関連し合う世界において学習者が自らの能力を十分に発揮し、世界的に重要な課題に対して行動することができるよう、ESD を奨励するとともに、批判的思考、コミュニ
ケーション能力、言語能力などのグローバル化に対応した能力や異なる文化の人々と協働することができる力を持つ人材を育成することの必要性を確認した。
これを支援するためには、現在及び将来におけるニーズに対処するとともに、求められるスキル発達を促すような教育を実現することが重要である。そのため、私たちは、基礎・基本や STEAM(科学・技術・工学・芸術等・数学)教育を含んだ広範かつバランスの取れた教科等横断的な教育を、あらゆる教育段階の全ての児童生徒を対象に推進する。
加えて、私たちは、デジタルやグリーン・テクノロジーなどの成長分野における学習者のスキルの向上や、アントレプレナーシップ(起業家精神)の育成を奨励する。社会や経済が急速に変化する中で、学習者が生涯にわたって適切な資質・能力を身に付けられるよう、あらゆるライフステージにおいて、就業している者や失業している者を含め、全ての人に公平、包摂的で利用可能な継続教育の機会を提供することの重要性を認識する。教育分野での、そして教育を通じたジェンダー平等と教育における障壁を取り除くことの重要性を強調する。
これらの取組を推進するため、私たちは、教師や教育関係者、行政だけではなく、学校外の関係者の協働により、より広範な社会的背景と結びついた教育システムの構築と、子供や若者、大人に必要な支援と多様な教育機会を提供することを目指す。
6. 第四に、一国では解決できない課題に世界が直面する一方、国際社会が一体となることで良い方向へ導く希望が残されている。そのために私たちは、各国間の友好関係や相互の信頼の構築、多様な視点の共有、民主主義、人権、自由、平和等の普遍的価値観の基盤形成に重要な役割を果たす、留学生の交流や教育・研究における国際頭脳循環を促進することを目指す。児童生徒、学生、研究者・学者、教育者の交流は、現在と将来を担う者同士の繋がりを強化するものである。このような関係は、共通の課題に対処し、社会の繁栄や世界平和を実現するために不可欠である。
具体的には、私たちは、初等・中等・高等教育や職業教育における G7 各国間の国際交流をコロナ禍前の水準に戻すとともに、それ以上の拡大を図っていくことの重要性を認識する。加えて、大学間連携及び学校間の提携の深化、留学プログラムや、ICT を活用した交流の促進、国境を越えた高等教育機関同士の学習コンテンツのオンライン共有等も推進を目指す。一方で、オンライン学習は対面による教育や学習を代替するものではなく、対面による教育・学習が重要であることには変わらないということを認識する。
より早い教育段階からの人材交流の促進は、異文化間に関する能力を身につけることや交流の基盤となるネットワーク及びスキルの構築のために重要であるとともに、民主主義等の普遍的価値観の礎をより強固にするものであることを確認する。また、こうした国際交流の促進は、イノベーションを創出する新たな考え方や視点を生み出す契機となる。さらに、G7 各国間の教育交流は、G7 各国にとどまらず、世界全体においてグローバル化に対応した能力や異なる文化の人々と協働することができる力のある人材を育成することにより、民主主義の基盤の強化につながるものであるということを認識する。
7. 以上の取組を進めるに当たって、私たちは、「教育における投資をより多く、より公正に、より効率的に」と各国に求めた TES を振り返り、人への投資の重要性を認識する。また、本大臣会合で議論して中核的要素として含まれることになった連携・協力を深めていく。
G7 教育大臣会合は定期的に開催されていたわけではなかった。コロナ禍やロシアのウクライナ侵略、その他の危機等の経験を通して、各国は、多くの共通の課題に直面する中で、教育の普遍的な価値・重要性を再認識した。このため、私たちは、各議長国の主導の下、G7 全体で教育に関するハイレベルでの対話を引き続き奨励していく。
私たちは、2022 年 G20 教育大臣会合(インドネシア・バリ)議長総括に示された調和と協調に基づくウェルビーイングのアプローチを認める。また、学校や大学が精神的なウェルビーイングを促進・支援するような、安全かつ協力的な学習環境となるよう取り組む。さらに、子供たちのウェルビーイングを考慮した科学的根拠を踏まえたアプローチの重要性を認識する。
私たちは、過去の G7 でのコミットメントを振り返りつつ、G7 教育大臣会合での成果が G7 以外の国々に対する貢献ともなるように、私たちは連携・協力して、今後の教育が直面する課題に対する解決策を見出すための連携・協働に引き続き努める。私たちは、この約束を国際社会と広く共有する。