■ミラメクポイント解説 ■子供の成長に伴走 たくましく学び続ける令和の時代の教師たちの姿~「新たな教師の学びの姿」の実現に向けて~
2022年12月、日々の学校教育活動を通じて子供たちの成長を支える教師について、養成・採用・研修等に関する中央教育審議会答申※が取りまとめられました。
Society5.0時代の到来やGIGAスクール構想をはじめとして、社会や学校現場を取り巻く環境は大きく変わっていますが、教師が公教育の要であることは変わりません。
今回は、この答申、「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~について、ポイントを解説します。
■答申取りまとめまでの経緯■
2021年
1月 中央教育審議会【答申】
「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~
3月 文部科学大臣【諮問】「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について
①教師に求められる資質能力の再定義
②多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成
③教員免許の在り方・教員免許更新制の抜本的な見直し
④教員養成大学・学部、教職大学院の機能強化・高度化
⑤教師を支える環境整備
11月「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会【審議まとめ】
「令和の日本型学校教育」を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて
2022年
5月教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律 成立(第208回通常国会)
10月 中央教育審議会【答申素案】
「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について ~「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~
11、12月パブリックコメント実施
12月中央教育審議会【答申】
■改革の大きなポイント■
答申の総論では、今後の改革の方向性として、次の3つの柱が示されています。
①「新たな教師の学びの姿」の実現
・教師の学びを子供の学びの相似形ととらえて教師自身の学び(研修観)を転換し、教師の個別最適・協働的な学びの充実を通じた、主体的・対話的で深い学びを実現する
・教師の養成段階も含め、自らの実践を理論に基づいて振り返り、次の実践につなげていく学修を充実させる「理論と実践の往還」の実現を目指す
②多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成
・教師一人ひとりの専門性を高めるとともに、多様な専門性を有する人材を教職員集団に取り込み、組織のレジリエンス(変化に対応する力、立ち直る力)を高める
・組織マネジメントに留意し、心理的安全性を確保し、前例や実績のない試みに挑戦する教師を支援できる環境を醸成し、働き方改革を一層進める
③教職志望者の多様化や、教師のライフサイクルの変化を踏まえた育成と、安定的な確保
・大学の教職課程で、多様な教職志望者へ対応するため柔軟性を高める
・教育委員会においても、様々な形で採用された教師について、ライフサイクルの変化を踏まえた柔軟な対応が必要
■改革の具体的な内容■
①「令和の日本型学校教育」を担う教師に求められる資質能力
教師に求められる資質能力について、⑴教職に必要な素養、⑵学習指導、⑶生徒指導、⑷特別な配慮や支援を必要とする子供への対応、⑸ICTや情報・教育データの利活用の5つに構造的に再整理されました(図1)。
また、「理論と実践の往還」を重視する観点から、教育実習等の在り方を見直します。例えば、全ての学生が一律に教職課程の終盤に教育実習を実施するのではなく、早い段階から学校体験活動を活用して学校現場に入り、大学での理論に関する学びと、現場での実践に関する学びを反復しながら学ぶスタイルなどが提言されています。
②多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成
多様な専門性を有する教師の養成のため、データ活用や心理・語学力などの強みや専門性を身につける活動と教職課程の学修との両立や、小学校高学年における教科担任制などに対応した、新たな教職課程の開設が示されています。
教員採用選考については、選考試験の早期化・複線回実施や、多面的な選考の実施が示されています。また、多様な人材を教師として取り入れるために、特別免許状の活用促進や、教員資格認定試験の高校「情報」への拡大などが示されています。
さらに、教職員がそれぞれの強みを活かし、働きがいを高めて日々取り組めるよう、校長等管理職に求められる資質能力の明確化などが提言されています。
③教員免許の在り方
教員免許更新制については、2021年11月に、中央教育審議会から、免許更新制の発展的解消と研修の高度化に係る制度改正に向けた提言を含む「審議まとめ」が取りまとめられました。第208回通常国会で、これを踏まえた法改正が認められ、これまでの教員免許更新講習の成果を継承しつつ、教師の個別最適・協働的な学びの充実を通じて主体的・対話的で深い学びを実現する、新たな研修制度の実施へと発展的に解消されました。各教師の研修履歴を記録し、その記録を手掛かりとして、学校管理職等が資質向上に関する指導助言等を行う仕組みは2023年4月1日から開始されます(図2)。
この仕組みを支えるため、国において、独立行政法人教職員支援機構と連携し、教育委員会や大学・教職大学院、民間等が提供する研修コンテンツを一元的に収集・整理・提供する機能を備えた「プラットフォーム」と、「研修履歴記録システム」の一体的な構築を行うことが必要であると指摘されています。
さらに、義務教育9年間を見通した免許のあり方として、小学校教諭と中学校教諭の両免併有の促進のための方策が示されています。
④教員養成大学・学部、教職大学院の在り方
教師の養成の中核を担う、教員養成大学・学部、教職大学院は、学部と教職大学院との連携・接続を強化し、教職大学院進学希望者対象コースの設定や、先取り履修を踏まえた教職大学院の在学年限短縮などが提言されています。
また、教育委員会と大学の人事交流や、研修プログラムの連携・協働、さらに、実務家教員の積極的な登用など教員養成に係る理論と実践の往還を重視した人材育成などについて示されています。こうした取組を進めながら、教員就職率の向上や組織体制の見直しを図ることについても言及されています。
⑤教師を支える環境整備
教師が自らの人間性や創造性を高め、日々の学校教育活動を効果的に行うために必要な環境整備について提言されています。
まず、学びの振り返りを支援する仕組みの構築として、③で紹介した教員研修の高度化を支援する「研修履歴記録システム」および「プラットフォーム」の一体的構築の必要性が示されています。
また、これらを活用する新たな研修制度では、研修履歴の記録・管理を自己目的化しない意識が必要であることなどが指摘されています。
さらに、多様な働き方など教師を支える環境整備として、失効・休眠免許保持者の円滑な入職の促進や、働き方改革の一層の推進、勤務実態調査結果を踏まえた教師の処遇の在り方の検討などについて指摘されています。
■答申に込められた一番のメッセージ■
最後に、中央教育審議会委員の思いがつまった「おわりに」を、一部抜粋して紹介します。
教師に関する改革は、現場の教師が、未来の担い手である子供たちとしっかり向き合い、また、伴走できることに繋がらなくてはなりません。文部科学省は、この度の答申を踏まえ、現場の皆様とともに、子供たちの学びが最大限充実するための取組を全力で進めてまいります。
中央教育審議会(第11期)委員からのメッセージ
審議に参画いただいた委員のうち7名によるメッセージ動画を公開しています。答申への思いがたくさん込められていますので、ぜひご覧ください。
ここではメッセージの一部をご紹介します。
[中央教育審議会(第11期)会長として答申に込めたメッセージ]第一生命ホールディングス株式会社取締役会長 中央教育審議会(第11期)会長渡邉 光一郎 会長
持続可能な未来の担い手として子供たちが
育っていくことに、教師が伴走者として
しっかりと向き合う教育を実現しましょう
[教員養成大学・学部・教職大学院の皆様へ(経営の観点を踏まえて)]
兵庫教育大学長 加治佐 哲也 委員
大学等の教員養成や教員研修の機能強化や
質向上をを図るチャンスと捉えることができます
[教師の皆様へ]
戸田市教育委員会教育長 戸ヶ﨑 勤 委員
教師冥利に尽きるのは「出藍の誉れ」であると思っています
[教員養成大学・学部・教職大学院の皆様へ
(教職課程における指導の観点を踏まえて)]
学習院大学文学部教授・東京大学名誉教授 秋田 喜代美 委員
これからの教職課程について
一緒に語り合っていきたいと願っています
[学校管理職の皆様へ]
教職員支援機構理事長 荒瀬 克己 委員
子供たちにとってそして教職員にとって
豊かな学校を作ることを応援します
[学生・教育委員会の皆様へ]
認定NPO法人 Teach For Japan創業者Crimson Global Academy日本代表 松田 悠介 委員
教師ほどインパクトを目の当たりにできる仕事は
意外と世の中では少ない事に気づかされました
[教育委員会・学生の皆様へ]
東京都教育委員会教育長 浜 佳葉子 委員
子供たちが憧れるような
先生にあふれる学校を
皆さんと作っていきたいと思います
審議会委員によるメッセージや、動画による分かりやすい解説はこちらに掲載しています。
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