ミラメクINTERVIEW 10兆円規模の大学ファンドは研究力復活の起爆剤となるか
2000年代半ば以降、低迷する日本の研究力。
この課題を解決する可能性を秘める「国際卓越研究大学法」が昨年11月に施行されました。公募は今年3月で締め切られ、4月から今秋にかけて段階的に大学が絞り込まれます。
研究振興局・森晃憲局長に、この制度にかける思いを聞きました。
圧倒的な資金力の差が
日本の大学の困難の一因
——国際卓越研究大学制度とはなんですか。その目的、事業の背景は?
10兆円規模の大学ファンドを創設し、その運用益で国際卓越研究大学として認定された大学に対し、1校あたり年間数百億円の規模で支援する仕組みです。研究環境の充実や優秀な人材の獲得を促すことで、諸外国のトップレベルの研究大学に伍する研究大学の実現を目指しています。
日本の大学は、論文の質、量ともに低調で、世界のトップ大学から大きく水をあけられていると指摘されています。もちろん、日本の大学も日々努力されていますが、諸外国に比べ、圧倒的に研究費その他の資金が不足しており、そのために相対的に順位を下げているのです。
米国のハーバード大学など成果を上げている大学は、卒業生からの寄附などを原資とし数兆円規模の基金を独自に持っています。豊富な資金力を活かして研究成果を上げ、それが人を惹きつける、という好循環を作っているのです。日本の大学も独自の基金を作っていけるよう支援したい。大学ファンドの創設はそのためでもあります。
——10兆円を投じ、運用益で大学を支援するという発想は大胆ですね。
例えば、米国では、アイビーリーグのような歴史のある私立大学だけでなく、州立大学やリベラルアーツカレッジも潤沢な大学独自基金を有し、高等教育機関の多様性や層の厚みをもたらしています。特に、トップレベルの研究大学では、数兆円規模の独自基金の運用益を活用し、研究基盤や若手研究者への投資を充実しており、我が国の大学の研究力が相対的に低下する一因となっています。
このような資金力の差を、我が国の各大学の力のみで直ちに解消することは困難ですので、今般、国の資金を活用して大学ファンドを創設し、その運用益により、大学の研究基盤への長期的・安定的な支援を行うこととしたところです。
大学が自律的な財務運営ができる財政基盤を持つことは重要です。潤沢な資金によって大学の研究活動が活性化し、大学発のベンチャーができるなど、新しいチャレンジによってどんどん成長してもらいたい。大学ファンドをその起爆剤にしていただきたいのです。
変革への意思と
コミットメントを重視し選定
——国際卓越研究大学に選ばれるのはどのような大学ですか? また、選ばれる大学に期待することは?
ひと言で言うならば、「あの大学なら確かに世界に伍する研究大学だね」と、世界のトップ大学も納得するような大学ですね。世界の公共財として、世界からも頼られる、世界の大学と共に研究していく、そんな開かれた場であってほしい。
選定は、これまでの実績・蓄積のみで判断するのではなく、変革への意志とコミットメントの提示に基づいて、対話を通して慎重に行います。
国際卓越研究大学には、10年先、20年先、100年先の長期的な視野に立って時空を超えた研究をしていただきたい。もちろん短期的に成果を出していくことも大切ですが、それは企業との共同研究という形で従来どおり進めていただく。大学ファンドでは、世界の情勢を見ながら将来を見据えた研究に取り組める環境を実現したいですね。
もう1つ、国際卓越研究大学に期待したいのは、世界とのネットワーク力です。世界中から優れた研究者や学生を惹きつけ、世界トップレベルの優れた研究成果を出していく、そういった環境を国際卓越研究大学には整備していただきたいです。
一方で、国内の他大学に良い影響を与え、人材の交流や共同研究などを含め、他大学を牽引していく存在になっていただきたい。うちの大学さえよければいいという大学は、国際卓越研究大学にはふさわしくありません。
——この事業によって地方の大学はどうなるのか、不安の声もあります。
本事業は、特定の大学だけを引き上げる取組ではありません。国際卓越研究大学を核として、学術ネットワークを形成し、我が国の大学全体の底上げを図っていきたいのです。
また、地方にはその地域のリソースを活かした独自の研究を行っている大学がたくさんあります。そうした個性的な大学には地域の中核となって、輝いていただきたい。全国にある地域中核・特色ある研究大学に対する支援も大きく拡充していきます。
日本の大学の可能性を信じ
新しい大学像を共に描きたい
——この記事の公開日には応募は締め切られる予定ですが、現在の応募状況は?
現時点で具体的な応募状況を申し上げることはできませんが、公募に関する質問を受け付ける窓口には、多くの大学から登録をいただいています。4月に入りましたら申請大学名を公表する予定ですので、もう少しだけお待ちいただければと思います。
——大学関係者をはじめとする、読者の皆様へのメッセージをお願いします。
今回の取組は、我々にとってもかなりチャレンジングな試みですが、必ず成功させるという強い気持ちで取り組んでいます。ぜひ大学側にも果敢に挑戦していただきたい。「まだ世界と競い合うには早い」「応募条件のハードルが高い」という声も聞こえてきますが、日本の大学のポテンシャルは決して低くはありません。新しい価値観、新しい大学像を提示していただける大学であれば、どこの大学にも可能性はあります。
我々も、日本の大学の力を最大限伸ばしていけるよう努力していきますので、大学関係者の方々はもちろん、さまざまなステークホルダーの方々にもぜひ、関心を持っていただき、いろいろな形でご支援いただければと思います。
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