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【不登校対策】誰一人取り残されない学びの保障に向けて(インタビュー)

 2022年度の小・中学校の不登校児童生徒数が、約30万人と過去最多となりました。また、欠席日数90日以上の不登校の生徒は約5万9千人、学校内外の専門機関等で相談・指導を受けていない児童生徒数は約11万4千人に上っており、子供たちのSOSを受け止め、外部の関係機関等と連携してきめ細やかな対応をすることが求められています。

 そこで、文部科学省は全ての児童生徒が安心して学ぶことができるよう「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」「不登校・いじめ緊急対策パッケージ」を策定しました。子供たちに徹底的に寄り添い、教育委員会等の各機関と連携し、不登校対策を推進しています。

 今回は、初等中等教育局児童生徒課の伊藤 史恵課長を中心に、COCOLOプランの推進を担う担当者に文部科学省の不登校対策について聞きました。


不登校児童生徒が急増

―― 2022年度の不登校児童生徒数が約30万人、不安や悩みを相談できない児童生徒数が約11万4千人で過去最多となっていますが、これについてどのように考えていますか。

 義務教育の段階で学びに繋がっていない子供たちが多くいることについて、誰一人取り残されない学びの保障を推進している文部科学省としては、極めて憂慮すべき状況として受け止めています。不登校児童生徒数は10年連続で増加しており、新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからの2年間で約10万人増加(1.5倍)となりました。時差登校で登校リズムが変わったり、学校生活に制約が増えたことで、交友関係を築くのが難しくなり、登校への意欲を失った子供たちが増えたことも、原因の1つだと認識しています。

(出典)「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」

 子供たちに寄り添ったCOCOLOプランの策定

―― 文部科学省が、不登校対策として重視して取り組んでいることを教えてください。

 文部科学省では、2023年3月に、誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策として「COCOLOプラン」を発表しました。COCOLOプランでは、
① 不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整える
② 心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する
③ 学校の風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にする

という3本の柱を打ち出しています。

「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策 (COCOLOプラン)」

 一人一人に合った学びの場を確保するため、学校の中に校内教育支援センター(クラスに入りづらい子供が、落ち着いた空間で自分のペースで学習・生活ができる場所)を設置したり、不登校の子供たちのための「学びの多様化学校」(総授業時間数の短縮など、不登校児童生徒に合わせた教育課程を組む学校)の設置を促進することや、教育委員会が設置をする教育支援センター(子供たち一人一人に合わせた個別学習や相談を行う場所)の機能を強化したりして、学びの場を提供していく必要があると感じています。

―― 学びの多様化学校設置の具体的な見通しを教えてください。

 これまでは「不登校特例校」と呼んでいましたが、不登校特例校に在籍する児童生徒や関係者の声を聴きながら「学びの多様化学校」という名称に変更し、不登校児童に配慮した学校として、通常の学校より総授業時間数が少ないなど、柔軟に学ぶことができるようにしています。学びの多様化学校については、各都道府県と政令指定都市に1校ずつ設置することとし、将来的には分教室型も含めて300校を目指すという数値目標を立てています

 そこで、文部科学省では、自治体向けに学びの多様化学校の設置に係る相談を受け付けており、参考資料の提供や補助金の活用等、設置に向けての相談を実施しています。「どういう教育課程や制度があるの?」「設置促進のための補助金は出るの?」といった疑問にお答えしますので、積極的に設置をご検討いただき、お気軽にご連絡ください。

担当の堀係員

―― フリースクール等、学校外の多様な学びの場が期待されていますが、その一方で、こうした学びの場があれば、学校に行かなくてもよいのではないか、という声があります。

 学校は学力の習得だけが目的ではなく、将来社会的に自立していくために人間関係を構築すること等を学べる重要な教育機関であり、子供にとって一番近い学びの場です。学校には教員免許を持った教員がいて、財政支援により環境も整えられている等、教育の質が担保されています。まずは学校で学ぶチャンスを子供たちが失わないように学校、教育関係者が努めることが児童生徒の社会的自立のために重要と考えています。文部科学省では、子供たちが何に困っているのかを早期に把握する取組を強化し、教育の質が保障された学校で学べる環境作りを強化していきます。

 ICT技術を生かして心のSOSの早期発見を

―― 1人1台端末を活用して、心や体調の変化の早期発見をする取組がされています。

 全国の公立小・中学校で、1人1台端末の整備が概ね完了しています。子供たちは配布された端末アプリを整備することで、悩みや困りごとを気軽に相談することが可能となります。
 ある自治体の教育委員会では、この仕組みを全小学校高学年及び中学校で取り入れたところ、多くの相談が寄せられたと報告されました。アプリ導入前は、教育委員会宛てにメールで相談するしか手段がなく、メール相談が年間約50件だったのですが、導入後はアプリから680件の相談がありました。普段使っている端末で簡単に相談ができるため、悩みを打ち明けるハードルが下がっていると思われます。
 また、アプリには心の状態を回答するアンケート機能が搭載されているものもあります。「気分が晴れない」という回答が続いている子供には、教員が声掛けをすることができるので、子供の心の変化やSOSに早めに気付いて対応することが可能です。

(出典)学校風土の把握ツール 文科省が昨年行った調査に則った数値(都道府県の数)

―― 子供たちの心の健康状態を「見える化」するために、アンケートは有効かと思います。具体的にはどのようなアンケートツールがあるのでしょうか。

 授業への満足度、教員への信頼感、学校生活への安心感が低い子供が不登校になっている可能性があります。自治体や学校側がこの実態を把握し、対策を講じられるよう、昨年7月に「学校風土の把握ツール」をまとめました。ここでは、授業満足度や生活満足度など、様々な項目を可視化できるアンケートツールが紹介されており、今まで見えなかった子供たちの本音を把握する一助になると思います。教育委員会を通じて、各学校現場に「学校風土の把握ツール」の資料を配布しているので、ニーズに合ったアンケートツールを導入していただければと思います。

不登校児童生徒へのきめ細かな対応と、教員の負担減

―― 子供たちに寄り添った対応を強化する一方で、学校の先生方は多忙を極めていらっしゃいますが、国からの支援はあるのでしょうか。

 授業や子供たちへの声掛けは、教員の重要な役割であり、教員がそこに全力投球できる環境作りを進めていく必要があります。教員を支援するスタッフとして、子供と向き合う仕事以外の業務をサポートする人員を増やしていきたいと思います。また、子供の心理的状況の相談はスクールカウンセラー(心のケアや心に関する授業を行う心理の専門家)、ご家庭に課題を抱えており、福祉機関と家庭を繋ぐ必要がある場合はスクールソーシャルワーカー(福祉・医療的な支援が必要な場合に手伝ってくれる福祉の専門家)といった教員と役割分担、連携・協働して対応を進めるための人員を増やしていきたいと思います。

伊藤 児童生徒課長

 みんなが安心して学べる学校へ

―― 不登校児童生徒や保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
 
 昨年10月には「不登校・いじめ緊急対策パッケージ」を策定しました。COCOLOプランの取組を前倒しし、学校内外の教育支援センター等学びの場の整備や、小さな心のSOSの早期発見として、アプリによる「心の健康観察」推進等の緊急支援策を打ち出しており、文部科学大臣より「誰一人取り残されない学びの保障をする」とメッセージを発信しました。

 子供たちへは、安心して学べるよう、学びの場やSOSを受け止める環境を整備していくので、積極的に利用・相談してほしいと思います。保護者のみなさんからは、困ったときにどこに相談すればよいのか分からないという声がありますので、保護者の方が情報にアクセスしやすくなるよう、学校内外の学びの場に関する情報や相談窓口等の情報発信の強化を各都道府県教育委員会等に要請するとともに、今後、文部科学省でもその情報をまとめて発信していく予定です。ぜひご活用ください。文部科学省は、子供たちの心のSOSを早期発見し、一人一人に寄り添った学びの場を提供できるよう、全力でサポートしていきます。


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