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いま、大学発スタートアップが熱い

日本は経済の低迷や人口減少など様々な社会課題を抱えています。その状況を打破する手段としてスタートアップの存在が注目されており、特に、ディープテックと言われるAI(人工知能)や量子コンピュータ、宇宙、核融合、再生医療等のスタートアップは、世界的にも大きな社会的インパクトを与えることが想定されます。このため、この分野のスタートアップを創出する大学には、社会から高い期待が寄せられています。
ここでは、スタートアップの役割や、社会で活躍する大学発スタートアップについて紹介します。

大学発スタートアップ創出・成長に向けた文部科学省の施策

POINT
▶ スタートアップは我が国の経済成長をけん引する重要な担い手。
▶研究成果を活用した大学発スタートアップが多数誕生し、活躍する社会を目指します。
▶文部科学省では大学を中心とした起業支援の体制整備や人材育成を一体的に推進。


スタートアップとは?

「スタートアップ」は、革新的な技術やビジネスモデルにより急成長を目指す新しい企業です。「破壊的イノベーション」とも呼ばれる、今までの常識を壊すような過去に事例の無いビジネスを生み出す点が特徴です。世界的なIT企業でビッグテックと呼ばれる5社(Alphabet、Apple、Meta、Amazon、Microsoft)も、元々はスタートアップとして大きな成長を遂げ、今では5社のみで米国株式市場の時価総額の2割以上を占めています。また、電気自動車メーカー最大手のTesla(米)、新型コロナワクチンを開発したModerna(米)、ChatGPTを生んだOpenAI(米)等もスタートアップのひとつとされています。

なぜスタートアップが重要か?

日本経済は諸外国と比較して近年伸び悩みを見せており、GDP(国内総生産)の世界ランキングでは、2000年の2位から、2023年にはアメリカ、中国、ドイツに次ぐ4位まで下がり、2025年にはインドに次ぐ5位となる予想も出ています。さらに、人口減少問題等の様々な社会課題を抱える中、このような経済状況を打開する切り札として、今、スタートアップが注目されています。スタートアップの創出・成長により、新たな雇用創出や、社会課題解決を促進し、持続可能な経済社会を実現することが強く期待されています。

日本政府は、スタートアップを生み育てるエコシステムを創出するため、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。本計画では、①スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築、②スタートアップの成長のための資金供給の強化と出口戦略の多様化、③オープンイノベーションの促進、の3本柱が掲げられ、官民一体となって取組を推進しています。

大学発スタートアップとディープテック

スタートアップの中でも、大学で生まれた研究成果に基づいて設立されたスタートアップ(大学発スタートアップ)は、大学に潜在する優れた研究成果を掘り起こし、新規性の高い製品やサービスにより、新市場を創出することが期待されています。特に、人工知能(AI)、量子コンピュータ、宇宙、核融合、再生医療等の、ディープテックと呼ばれる技術は、世界的な経済社会課題を解決し、大きな社会的インパクトを与える可能性があるとされています。このため、ディープテック分野のスタートアップの創出を担う大学への期待は増しています。

なぜ大学がスタートアップ創出を推進するのか?

大学は、学術研究の推進や高度な知識を持つ人材の育成を行う一方で、これらの成果を社会に還元することが求められています。近年、その社会還元の手段の1つとして、スタートアップを起業して事業化するケースも増えており、2023年時点で大学発スタートアップ数は、4288社(※1)に上り、過去最高を記録しています。

大学がスタートアップ創出を推進する理由は様々ですが、主に以下の2つが挙げられます。

①大学の研究成果の持つ技術的優位性により、スタートアップが上場する可能性が高い。
国内の株式会社全体における上場割合が約0.15%(約260万社(※2)のうち上場企業約3900社(※3))であるのに対して、国内で上場している大学発スタートアップは63社(※1)であり、その上場割合は1.5%と、大学発スタートアップは上場に至りやすいと言えます。

②研究成果が死蔵されるリスクが低い。
大学と企業との共同研究成果の事業化が企業の経営判断等により見送られた場合、せっかくの研究成果が活用されないことがあります(死蔵化)。その点、大学発スタートアップは、自社事業としての実施のため、資金調達に奔走する必要はあるものの、死蔵化のリスクを減らし、より直接的にいち早く研究成果の事業化を目指すことが出来ます。

※1 経済産業省「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査」
※2 国税庁「令和4年度分 会社標本調査」
※3 日本取引所グループ ウェブページ「上場会社数・上場株式数」

大学発スタートアップの好事例

大学発スタートアップの中でも、皆さんの身近なところで活躍しているスタートアップを2社紹介します。

❶ テレイグジスタンス株式会社 

(設立日:2017年 / 代表取締役CEO 富岡仁)

ミッションに、「すべての惑星上のすべての人々に、ロボット革命の恩恵を授ける」を掲げ、遠隔操作・人工知能ロボットの開発および、それらを使用した事業を展開している企業です。

テレイグジスタンス(TELEXISTENCE / 遠隔存在)とは、創業者の一人でテレイグジスタンス株式会社の会長である東京大学名誉教授 舘 暲氏が提唱し、自分自身が現存する場所とは異なった場所に実質的に存在し、その場所で自在に行動するという人間の存在拡張の概念であり、また、それを可能とするための技術体系です。東京大学および慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科からの技術移転を受け、この技術の実用化を実現し、社会全体の生産性を向上させることを目指しています。

飲料補充AIロボット(出典:株式会社ファミリーマートウェブページ)

最近の取組:飲料補充AIロボットで店舗の更なる省人化・省力化を推進

2021年11月に開発した、冷蔵陳列棚に飲料を自動補充するロボット『TX SCARA』は、店舗従業員への作業負荷の大きい飲料補充業務を24時間行い、これまで人間が行っていた飲料補充業務を完全になくし、店舗人員を増やすことなく新たな時間が創出され、店舗の労働環境や売場の更なる質の向上、店舗の採算性の改善を目指している。

❷ WOTA株式会社

(設立日:2014年 / 代表取締役 前田瑶介)

「水問題を構造からとらえ、解決に挑む。」を存在意義として掲げ、小規模分散型の水循環システムの開発と社会実装に取り組み、局所的・対症療法的な解決方法ではなく、現代社会の水利用の構造的課題をとらえ、普遍的な解決方法の実現を目指している企業です。

前田氏は、中学生で水問題に関心を持ったことをきっかけに、高校時代に水質浄化の研究を実施(日本薬学会発表)。大学では都市インフラや途上国スラムの生活環境を、大学院では住宅設備(給排水衛生設備)を研究しており、この経験を活用し、フィルターによるろ過で水を再利用し、水道のない場所や災害時にも水を利用できる「WOTA BOX」を開発しました。この技術は、フィルターや深紫外線により、一度使った水の98%以上を再利用することができます。

小規模分散型水循環システム(出典:WOTA株式会社ウェブページ)

最近の取組:能登半島地震 断水エリア全域カバーに向けて、「自律運用」による入浴、手洗い提供を加速

2024年1月に発生した能登半島震災断水と避難所生活の長期化が見込まれる中、能登半島地震断水エリア全域における避難所の衛生環境の維持・改善と、より人間らしい避難所生活の実現を目指し、断水時でも機能する小規模分散型水循環システムの無償提供とその「自律運用」の支援活動を実施。

文部科学省での支援

文部科学省では、大学と地域が一体となってスタートアップを創出する体制整備として、研究シーズの事業化に向けた開発資金(大学発新産業創出基金によるギャップファンドの提供や経営者人材と研究者とのマッチング促進等、起業をサポートする環境整備の構築を支援しています。

また、スタートアップを志す人材等を育成するため、小中高生から大学生、大学院生まで幅広い世代に向けて、自ら行動を起こすための精神を養うアントレプレナーシップ教育を行っています。さらに、起業家等が講師として、学校現場に出向く、「アントレプレナーシップ推進大使」の活動を通じて、講演やワークショップを行い、小中高生がアントレプレナーシップに触れる機会を提供しています。

加えて、大学発スタートアップは、その特性から創業後も研究開発に多大な時間や費用を要することが多いため、投資等による起業直後のスタートアップ支援(出資型新事業創出支援プログラム SUCCESSも行っています。

日本の経済が成長していくためには、多くのスタートアップが創業し、大きく育つことが重要です。文部科学省では、大学発スタートアップ創出・成長支援を一体的に推進するとともに、スタートアップに関わる専門人材の育成等に引き続き取り組んでまいります。

出資型新事業創出支援プログラム SUCCESS

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