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【廃校活用】築60年の廃校がモノづくりの魅力発信地に変身 シェアアトリエ「海の校舎」(岡山県笠岡市)

  少子化による児童生徒数の減少により、全国で毎年約450校の廃校施設が発生しています。廃校は、一見すると役目を終えた施設に見えますが、建物自体は電気やガスなどの基本的な設備が整っているため、地方公共団体にとって貴重な財産です。現存する廃校施設の約8割は様々な用途に活用されています。しかし、残りの約2割の廃校は「施設の老朽化」「財源確保が難しい」「活用方法がわからない」等の理由で活用に至っておらず、毎年の維持管理費が地方公共団体の負担になっている状況があります。

 そこで、文部科学省では廃校活用推進のため「~未来につなごう~みんなの廃校プロジェクト」を実施しています。廃校を「使ってほしい」地方公共団体と、廃校を「使いたい」事業者等への情報発信・マッチングを行っているほか、廃校活用方法にお悩みの地方公共団体向けに活用事例を紹介しています。

 岡山県笠岡市では、民間事業者と地域の方々が一緒になって「NPO法人海の校舎大島東小」を立ち上げ、2018年3月に廃校となった旧大島東小学校を、2021年から「シェアアトリエ 海の校舎」として生まれ変わらせました。ここでは、地元の職人やクリエイターが集まり、知識や技術をシェアしながら制作活動を行い、地域の活性化へと繋がっています。民間事業者によって廃校が活用され、注目を集めている事例を紹介します。


取り壊されるはずだった旧大島東小学校

 旧大島東小学校は、岡山県南西部に位置する笠岡市にあります。ここは瀬戸内海に面した暖かく暮らしやすい気候の場所です。児童数が減ったことで廃校になってしまいましたが、旧大島東小学校を卒業した地元の方々からは、何らかの形で小学校を残してほしいという声がありました。しかし、古い木造校舎もあるため、老朽化による倒壊の危険や防犯面での危険があったり、財政負担の観点からも維持管理が難しかったりしたことから、笠岡市では取り壊す方向で検討が進んでいました。そんなとき、地元の家具職人の南さんが、職人仲間と共に「この廃校をアトリエとして活用したい」と笠岡市役所を訪れたのです。

現在の「海の校舎」

多様な人が集まるアトリエを作りたい

 南さんはもともと笠岡市に工房を持つ家具職人でした。2018年に旧大島東小学校の閉校の記事の写真を見た途端、この校舎に一目ぼれしたといいます。60~70年経った階段の手すりや廊下は木のつやが素晴らしく、こんな場所で仕事ができたらいいなと思ったそうです。教室の窓からは瀬戸内海が臨めて、ロケーションも最高です。たくさんの教室を活かして、ものづくりの館として異業種の職人を集め、お互いに刺激をし合える環境を作り、さらに一般の人達もたくさん集まるような場所にしたいと考えたそうです。

元校舎ならではの趣ある佇まい

 しかし市役所としては、南さん達職人からの申し出に対し「困ったな」というのが最初の印象でした。笠岡市には廃校利活用担当の部署も、そのノウハウもないため、どの部署が担当になるのか決まらず、こう着状態が続きました。それから1年経ったころ、当時協働まちづくり課に着任したばかりの藤井さんに、この廃校活用の話がまわってきました。藤井さんは「廃校活用の経験はないけれど面白そうな取組だ」と捉え、担当者を引き受けることになりました。ついに廃校活用の取組が動き始めたのです。

手探りでの廃校活用スタート

 藤井さんと南さん達に多くの壁が立ちはだかります。まず、笠岡市としては、個人事業主である職人達に市の財産である廃校施設を任せてよいのか、プロジェクトを進めるにしても誰がどういった形態で管理・運営していくのかが最初の課題となりました。相談の結果、南さんは廃校に思い入れがあり再活用を強く望んでいた地元の方々も巻き込んで廃校を楽しんでもらいたいと考え、公益性のあるNPO法人として「NPO法人海の校舎大島小」を立ち上げました。以後、このNPO法人がプロジェクトの窓口となります。

「NPO法人海の校舎大島小」の職人たち

 校舎の不要な構造物の撤去、行政財産から普通財産への移管手続、校舎の不動産鑑定の実施等の賃貸契約に関する業務等、多岐にわたって解決すべき課題がありました。それらの課題を市役所の一つの課だけで解決することは到底できません。そのため、藤井さんは公共施設マネジメントの一貫で当時設置されたばかりの「公有財産利活用検討委員会」を活用し、庁内横断的な課題として取り上げ、他部署を巻き込んで調整、協議を行うことで、密に課題とスケジュールを共有・連携し、横のつながりを強化して部署を越えた協力体制を築き上げました。

条例、資金……立ちはだかる壁

 大きな壁として、「特定用途制限地域内における用途制限の条例」がありました。廃校が田園居住地区にあるため、この条例により職人達が使う原動機(機械)の持ち込みができないことが判明したのです。市としても、このような条例のある地区にそんな計画を持ち込まれてもと一時は暗雲が立ち込めたといいます。しかし、南さん達は周辺環境に影響がないことを証明するため建築士による騒音調査や図面や書類などの作成を行い、地域住民への説明会も実施しました。藤井さんも建築指導関係者と粘り強く協議を重ねました。その結果、公聴会と建築審査会を経て、公益性を鑑みて特例許可を得ることに成功しました。

アトリエ内の工房

 他にも、自動火災報知器の設置等の法律的な制限をクリアするために、電気工事や校舎の改修等、膨大な作業が必要でした。笠岡市が賃貸物件として貸し出す形をとり、シロアリや雨漏り等、建物の根幹に係る最低限の整備は市が負担しましたが、事業としての改修費用はNPO法人で受け持つことにしました。南さん達は銀行からの融資も受けつつ、参加した職人達の技術を生かして自分達で直せるところは直し、なるべく費用を抑える工夫をして、まずは最低限の改修を行い、現在も改修を続けています。

 度重なる難問に、心が折れそうになることも何度かあったそうですが、南さん達は諦めることなく「何かいいアイデアはないだろうか」と考え続け、周囲の協力を得ながら一つずつ解決していきました。手探りで迷路の中を進むような状況の中で、文部科学省の「みんなの廃校プロジェクト」の事例の中から参考になりそうな取り組みを探しては、電話で問い合わせたり視察に行くことで、解決のためのヒントを見つけていったそうです。

モノづくりをとおして地域の魅力発信の中心地となったシェアアトリエ

 藤井さんと南さんをはじめとする関係者の奮闘により、2021年7月に「シェアアトリエ 海の校舎」がオープンしました。145年の歴史ある小学校に、ものづくりのクリエイターが集まり、入居者同士の交流を通じて知識や技術をシェアできるアトリエです。入居者の募集を始めてから、瞬く間にシェアアトリエの入居希望者が増えていきました。現在16事業者が入居しており、他府県から移住してきた入居者も4名います。賃貸契約5年間という契約でのスタートで、当初は1年に1事業者増えるくらいのペースを想定していましたが、3年目にして入居率100%の達成がほぼ確実になりました。

ワークショップの様子

 また、シェアアトリエでは、「使い捨てされるものではなく、長く使える商品に触れてほしい」という思いから、「クラフトマルシェうみの市」というイベントを年に1~2回行っています。作家さんの作品を購入したり、ワークショップでものづくり体験ができたり、校舎の中を見学できたりするイベントです。第4回目となった昨年4月のうみの市では、県内外から作家さんが集まり計66店舗出店しました。シェアアトリエに遊びに来てくれたお客さんが写真をSNSに投稿し、海が見えるノスタルジックな校舎として拡散してくれた影響もあり、うみの市の広報は大規模には行いませんでしたが、来客数2,000人超の大イベントとなりました。初めて笠岡市を訪れたカップルや若い人達が多くいたといいます。苦しい最中に参照した「みんなの廃校プロジェクト」上に、自分たちのケースが一事例として紹介されることになったのも、どこかの誰かの役に立てるかもしれない、と感慨深かった、とお二人はいいます。

大盛況のイベント「うみの市」

まちづくりへの拡がり 

 シェアアトリエが入居率100%に届こうとしている今、次のステージとして、各アトリエの教室とは別に、コワーキングスペースを作ることを考えているといいます。より多くの人に仕事場として海の校舎を利用してもらい、笠岡市に訪れる人を増やしたいという狙いです。県外からの移住も想定し、老朽化して危険な物件となっている空き家を活用して、移住してきた人に住む場所を提供できるよう計画しています。

145年の歴史ある小学校の木造校舎からは瀬戸内海を一望できる

 また、学校で笠岡市の取組を発信する機会も増えてきており、入居者さん達のお仕事やシェアアトリエについて、子供達に紹介する活動も行っています。人口減少が進み、大学進学や就職を機に地元を離れていく子供達が多い中、笠岡市の地域の魅力や地元に残っても社会にコミットした、かっこいい仕事や自分らしい生き方ができることを知る良い機会となっています。廃校活用によって笠岡市の知名度が上がり、県内外からたくさんの人が笠岡市を訪れるようになったこと、さらにこれから空き家問題等の地域課題も解決しようと取り組んでいることを紹介し、地域活性化という社会貢献の仕方を伝えていきたいといいます。

 長い時間をかけて地域の人々のたくさんの思い出を作ってきた校舎は、廃校になっても、地域を超えて人々をつなぐ拠点として様々な可能性を有しています。



【笠岡市の魅力】

豊かな自然と歴史に彩られた名所が盛りだくさんの笠岡市。
その魅力の一端をご紹介。

日本遺産

北木石の丁場
北木島特産の花崗岩「北木石」は、日本銀行本店本館、東京駅丸ノ内本屋などの建造物に使われ、日本の近代化に貢献しました。明治から現在まで採石を続ける丁場(石切り場)の展望台からは、壮大な景観を一望できます。

グルメ

笠岡ラーメン
笠岡ラーメンはスープにトリガラ、チャーシューに親鳥を醤油で煮た煮鶏(にどり)が使われているのが特徴です。晴れの日が多い岡山では日照時間が長いことから、養鶏が盛んに行われていたため身近な食材として親鳥が使われました。

スポット

道の駅笠岡ベイファーム
年間約80万人が来場する中国地方屈指の道の駅。施設を取り囲むように約13haの圃場へ菜の花、ポピー、ひまわり、コスモスと四季折々の花々を植えるなどの来場者の心をつかむ取り組みを実施中。

文化

白石踊
笠岡市白石島に古くから伝わる盆踊りで、「風流踊」の1つとして、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。踊の起源は、瀬戸内海で行われた源平水島合戦の戦死者の霊を弔うために始まったと言い伝えられています。


岡山県笠岡市
笠岡市は、西部が広島県と隣接した岡山県の南西部に位置し、瀬戸内海型の温暖で雨の少ない穏やかな気候です。北部は緑豊かで、南部は瀬戸内海国立公園内に有人7島を含む約30の島々を有するなど自然に恵まれているほか、市内には山陽自動車道笠岡ICやJR山陽本線笠岡駅があり、交通の便もよく、
とても住みやすい環境が整っています。
〒714-8601
岡山県笠岡市中央町1番地の1
TEL:0865-69-2121(代表)


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「ミラメク」2023年秋号 記事

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